Blog建築家が考える
プレミアムリフォーム・リノベーション

Architects think of Premium Reform & Renovation

高級マンションリフォーム・リノベーションの設計とデザインについて。
そのプロセスとノウハウを余すところなく公開しています。

吹き抜け上部の壁石材はく離の問題と対処について

西麻布N邸

昨年末にリノベーションを済ませお引渡しをした西麻布N邸のお客さまから、玄関上部にある吹き抜けの壁に貼ってあった石材が剥がれて落ちてきたとの緊急連絡を頂きました。

吹き抜け上部の石材はく離@西麻布N邸

生まれたばかりの赤ちゃんと小さなお子さまがいらっしゃるNさまご一家ですが、幸いにだれもいないときに剥落したようで、ケガや物が壊れたことはなかったようです。ただ、奥さまからは、タイミングが悪ければお子さまに深刻なケガあった可能性もあるので、まずは急ぎでの対応策をしたうえで、きちんとした原因究明と対処策を施して欲しいとのご要望を頂きました。
こちらは判りにくい写真ですが、玄関ホールから吹き抜け上部を見上げた写真です。

吹き抜け上部の石材はく離@西麻布N邸

こちらがはく離して落ちてきた石材のピースです。5ミリ厚のシルバフォックスという大理石の背部から強化エポキシ1ミリで補強した材料を特注で作って貰ったものです。写真を見ただけでも反っているが分かりました。

西麻布N邸の玄関吹き抜け

こちらは工事途中の玄関ホールの様子ですが、右上の箇所の石材が剥がれ落ちてきた部分です。

吹き抜け上部の石材はく離@西麻布N邸

ご連絡を頂いた当日のうちに施工会社に西麻布N邸に行って、状況確認をすると同時に他の石材がはく離しないようテープにて救急措置をして貰いました。

吹き抜け上部の石材はく離@西麻布N邸

こちらの写真はテープを張る前に、まずは外れた石材ピースを、外れた箇所にはめ込んで仮にテープで止めて貰った様子ですが、やはり相当反っており、この反りが原因で背面の接着剤がはく離したであろうことが判りました。

吹き抜け上部の石材はく離@西麻布N邸

改めて翌日に施工会社が職人さんと一緒に現地に伺って、打診をして少しでも危険度があると感じた石材は剥がして貰いました。昨日は曇りの状態でしたが、この日は快晴でしたが、上部が嵌め殺しのガラスで熱が逃げる場所がないこの吹き抜け上部は相当に温度が上がっている状態だったとの報告も受けております。

まずは当座の問題はある程度解消できたので、改めてNさまとの日程を調整して、まずは危険な状態を引き起こしてしまったことに対しての謝罪をするとともに、問題が発生した原因と対処方法について、こちらと施工会社で話をした見解をご説明させて頂きました。

・素材について
当初この壁は他の壁や床部分でも使ったハニカムで裏打ちされたもので検討しておりましたが、ちょうど現場監督の石山さんの背面に見えるキッチンへの勝手口の金物の収まりのディテールとの絡みで、薄く仕上げることが可能な強化エポキシでの裏打ち材に変更となりました。と同時に強化エポキシで裏打ちしたものでは大判サイズができないので、200×800程度の小型の割に変更していました。裏打ち材の強度はハニカムの方が強く、強化エポキシの方が弱いことが判っていました。

・接着方法について
施工をお願いした下請けの石材会社からは接着方法としてはベタに接着剤を塗って張る方法では不陸(フリク(壁の凹凸))を拾ってしまい、平滑に張ることができなので、今回は接着剤の点付け工法を採用したとのことでした。第三者の意見も聞きたかったので、付き合いのある他の石屋に確認したところ、接着剤の点付け工法が、強度的に弱いことはないが、写真をみると石を張る下地がパテ処理をした状態になっており、それは弱点の一つになっていたかも知れないとの意見を貰いました。

・吹き抜けの温度上昇について
これが今回、僕ら設計側がきちんと検討していなかったことでした。空気の逃げがない嵌め殺し窓付きの吹き抜けで、窓を閉めた車の中と同じように夏の温度はおそらく50度を超える状態になるようでした。夜になると他の室温と同程度の25度程度まで下がるので、これだけ温度の上下動があると裏打ち材と表面材の温度の違いで、特に強度が弱い強化エポキシだけで裏打ちした石材が反ってしまい、そのことによって接着部分が剥がれて石材がはく離落下したのだろうと考えられました。

・責任について
設計としては、材料選定の際に支給してもらった石材屋からは大きなアパレルなどの吹き抜け上部でも張った実績があることを確認していましたが、温度の急激な上下のことは十分に理解していませんでした。また、残念ながらこの石材屋の担当者(一人社長の会社でした)が、今回の工事中に病気で亡くなられてしまい、最終的な素材選定の問題点を確認することができませんでした。ただ、素材を当初のハニカム裏打ちからエポキシ裏打ちに変更する際の打ち合わせ時にも施工会社は同席しており、パテ処理下地の上にこの材料を張っていたことも問題点だったことについては同意してくれているので、石材を撤去して何らかの別の素材で仕上げることの費用についいては、設計事務所と施工会社で折半にすることになりました。

以上をNさまご夫妻にご説明したところ、謝罪を受け入れてくださった上で、原因と責任についてもご理解頂きました。

吹き抜け上部の石材はく離に対してのデザイン的対処案

吹き抜け上部まで石張りの壁が伸びていたこれまでの玄関内装デザインを、ご主人さまが特に気に入ってくださっていたので、何とか別の材料や方法を使って、以前と同じデザインに仕上げることができないかとのお話を頂きました。ただ、強度の高いより厚みのある石材を使うと、収納や勝手口の扉とフラットに仕上げることができないこと、また現れてしまう小口の処理もうまくできないこと、そしてやはり温度の上下が激しい箇所に石材を使う危険性があることをお話して、塗装仕上げにして貰うことでご了承頂きました。
上のCG図は、設計当初に作って貰っていたものですが、吹き抜け上部も右側の壁上部だけ塗装に変更したイメージ図です。現場でご説明した際には右側の建具と同じベージュブラウン色が良いのではとお伝えしておりましたが、このイメージ図を作ってみたところ、白の方が違和感がないので、こちらをお勧めいたしました。

吹き抜け上部の石材はく離@西麻布N邸に対しての緊急処置

そして後日吹き抜け上部の石材を全て剥がして、白い塗装で仕上げ直してもらった最終形の状態がこちらです。お二人からは、当初の石張りの方が高級感はあったが、これもほとんど違和感がないので大丈夫だとのご連絡を頂きました。お客さまと施工会社の全面的な協力もあって、迅速にご対応できたこと、ありがたく思っております。

西麻布N邸は、僕らにとっては初めてのメゾネットマンション住宅で、玄関のトップライト付き吹き抜けも初めての設計でした。初めてのことに対しては、なるべく慎重にというスタンスで設計デザインをしてきたツモリでしたが、今回のこの問題については検討が足りていなかったこと大いに反省しております。