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プレミアムリフォーム・リノベーション

Architects think of Premium Reform & Renovation

高級マンションリフォーム・リノベーションの設計とデザインについて。
そのプロセスとノウハウを余すところなく公開しています。

ルーフバルコニーのウッドデッキの技術的問題と解決策

千代田区M邸

千代田区M邸のマンションのルーフバルコニーにウッドデッキを敷くことになりました。ルーフバルコニー(通称ルーバル?)にウッドデッキと言えば、定番のように感じられる方が多いのではないかと思いますが、実は技術的には色々な難しさがあるのです。

マンションルーフバルコニーのウッドデッキ

60平米程あるルーフバルコニーのうち、リビングダイニングに面した25平米程度の広さにこのようなウッドデッキを敷く計画でした。

ウッドデッキの材料

こちらは最初に現場に搬入されたウッドデッキの材料です。ウッドデッキ材は南洋材のセランガンバツで、下地材は、腐らないように熱処理をしたエステックウッドを使っています。下地材に同材のセランガンバツを使うことも可能ですが、重量が重たく、硬くて現場でのカットや、ビス留めが大変なことなどから、施工会社青が推薦してくれた熱処理木材を使うことになりました。

ウッドデッキ材の染色サンプル

こちらは随分前にお客さまに確認させて頂いたウッドデッキの塗装サンプル材です。セランガンバツは対候性に優れた材料ですが、それでも無塗装では長持ちしないので、植物油ベースの自然塗料のオスモを塗布する提案をしております。オスモの色味が濃い方がより長持ちするのですが、赤味があったり、黒っぽいものはお嫌だとのことで、一番奥の色味で進めることになっていました。塗料を現場塗にすると、背面や小口に濡れなくなるので、現場に持ってくる前に全ての材を適切なサイズにカットして、全周オスモを塗布して貰っています。
因みに、今回はお客さまの指向でウッドデッキも下地も天然木材(一部加工品)を使いましたが、通常は人工木或いは樹脂木と言われる工業製品を使うことの方が多いです。樹脂木は天然木と比較して、対腐食性(メンテナンス)、ささくれ、色の変色、シロアリ対策などで優れておりますが、天然物ならではの風合いや経年変化、日射に対しての高温化に対しては、天然木の方が優れているとされています。

ルーフバルコニーでのウッドデッキ組み作業が始まりました。最初に技術的な難しさのことを書きましたが、何が難しいかと言えば、ルーフバルコニーにはこのウッドデッキの下地を留めるものが無いことが難しいのです。庭であれば、地面に束石を半分埋め込んで下地を組めますが、バルコニー床に重たい束石を乗せても、埋まっていなければずれてしまう可能性があります。バルコニー床にビスで留めると、防水性能を傷めてしまうので、それも不可能です。しっかりとした固定方法がないのに、地面にある庭よりも上層階ではるかに風通しが良いので、突風で屋外家具だけでなく、ウッドデッキそのものも飛ばされてしまう可能性があるのです…。

そこで施工会社の青の樋口さんや片岡さんと相談したのが、ツッパリを効かせる方法です。2本の堅木(こちらは突っ張り材なので、軽くて粘りがないエステックウッドではなく、セランガンバツ材を使っています)に、少しずらした位置にホゾ孔を切っておき、そこに三角のクサビを打ち込むことで、2本が互い違いの方向にズレて突っ張り度を調整できるという仕組みなのです。

ホゾ孔とクサビ

スケッチで描くと、このような単純に仕組みとなります。クサビの打ち込み具合で、ツッパリ度合いを決めて、最後は、2本の木下地を固定します。突っ張る片側はマンションの外壁で頑丈ですが、反対側は手すりのベース部分で、そこまでしっかりとしたものではないので、あまり強い力は掛けられないのです。

ある程度下地を組んだ所から、追い締めができるのが、この作りの良い部分でもありました。因みにこの堅木はセランガンバツですが、常にバルコニーの底面に接していると水分が染み込んで腐ってしまうので、ビニール製の長尺塩ビシートの破片を下に挟んでいます

.突っ張り材は、手すりのベースの位置に合わせて、4カ所で設定しています。

エステックウッドの大引き材は突っ張り材とアングル金物で緊結し、横風でウッドデッキが下地ごと飛ばされないように考えています。大引き材と上部のウッドデッキの荷重(重たさ)は、高さの微調整ができるマルチポストに担って貰っています。マルチポストの底面に接着剤をつけて、バルコニー床に接着できると、ある程度の強度が確保できるのですが、そうなると、将来マンション管理組合のメンテナンスでルーフバルコニーの防水をやり替えることになった場合、撤去も大工事になってしまうので、できないののです。マルチポストの下にも、バルコニー床が傷つかないように長尺塩ビシートをカットしたものを指し込んで貰っています。
既存のルーフバルコニーは雨水の処理のために水勾配が取られている(傾斜)のですが、このマルチポストで高さ調節することで、フラットなウッドデッキが張れるのです。

大引き材の上に、セランガンバツのウッドデッキ材を張っていきます。ガラス製の手すりとは2センチほどの隙間と設けて、風で煽られても、手すりを傷つけないように空かして貰っています。

マンションルーバルのウッドデッキ

こちらがデッキ材が張り上がった様子です。手前のバルコニー側には、前の所有者の残置物だった連結式のタイルを敷いています。横からウッドデッキの下に風が入り込まないようにデッキ材をサイド面にも張って貰っています。

ルーバルのウッドデッキ

反対側から見た様子です。こちらも風が吹き込まない処理は、同じです。

マンションルーフバルコニーのウッドデッキ

最後のこちらは、長手方向の端部は、風が吹き込まないようにするのが難しいため、このように大引きのから横材を張り出して、既存の手摺りの下に差し込んで、煽り止めにしています。