先回の現場解体検査で、コンクリート躯体の欠損部分やヒビが見つかった品川区Y邸で、それらの補修工事が行われました。
こちらが斫られた梁です。ハツられたのは、恐らく16年ほど前のリフォーム工事の際に、給水管を通すためだったと思われます。また、よく見ると、コンクリートがかぶさっている箇所も、コンクリートのかぶり厚が足りていません…(こちらは建物施工の問題です)。
無残にも斫られてしまったコンクリート梁のを補修している様子です。錆がついていた鉄筋はワイヤーブラシで錆を落とし、錆止めを塗ります(錆止め塗料がシーラーの缶に入れてあるだけで、シーラーを塗っている訳ではありません…)。
その後、写真のように仮の型枠を両側に組んで、無収縮モルタルを詰めて貰いました。本来は、構造上重要な部材である梁を欠いてしまっているという大問題なので、骨材が入ったコンクリートを打設して梁の強度を確保すべきところだったかもしれません。ただ、今回は梁天端が床スラブより上にあるという変則的な構造形式であり、梁の上端は圧縮しかかからないと考えられることと、そこまでやると専有部工事の範囲を超えた、共有部工事に踏み込んでしまうと思われるので、構造の専門家や先輩の建築家に意見を聞いた上で、このような簡易補修方法としました。
こちらは梁で囲まれた床スラブ全周に周っていたヒビです。
まず、Uカット専用の巾10ミリのブレードを入れたサンダーで、ヒビの中心に沿って丁寧に溝切りを行います。溝の深さは10~15m程度です。
きれいにU字カット溝が入った様子です。カット後に、ワイヤーブラシで溝の中をこすり、掃除機で粉じんを吸引してきれいにします。
その後、エポキシ樹脂のシール材を充填しています。いわゆる、U字カットシール材充填工法と言われるもので、全周を処理して貰いました。この補修方法では、空気中の湿気がヒビからRCコンクリート内部に入り込んで、鉄筋に錆を発生させることを防ぐことしかできません。こちらは地震などで床スラブが落下する可能性を考えれば、ヒビに沿って炭素繊維を張るなどの対処方法も考えられましたが、やはり相当大掛かりな工事になってしまいます(構造の専門家からも、ダブルで配筋されている床スラブであれば、地震が来てもスラブ自体が崩落する可能性は相当小さいとコメントを貰っているので、この補修方法を採用致しました)。
ここで紹介したコンクリート躯体の欠損やヒビに対する補修方法が、ベストな方法だったかどうかは、正直判っていません。しかし、全体のスケジュールと費用がある程度決まっており、相談をしたマンション管理組合からも「本来はコンクリート躯体は共用部であり、管理組合が関与する問題だと思われるが、大規模修繕工事の直後で修繕積立金も乏しい状態なので、専有者の問題として扱ってくれ」と言われている中で、このような問題に直面した経験のあるライフデザイン社、構造の専門家や先輩建築家の意見も聞き、更にお施主さまにも内容を説明したうえでの判断としては、ある程度バランスが取れた補修内容となったのでははないかと考えています。今回の記事は、あまりに専門的な内容になってしまいましたが、なかなか公開する機会のない内容でしたので、ご容赦ください。