大手リフォーム会社N社と設計施工契約を結んでいたSさまが、渋谷区のタワーマンションリフォームの設計途中で僕らにアドバイスを依頼してきた最も大きな理由が、仕上げ材の決定ができなかったことでした。ぼくらが手伝い始める前までの経緯を聞いていると、「最初にまだ仕上がりの希望もほとんどない状態で示されたイメージが先行してしまい、それを目標にデザイナーが提示してくる仕上げ材を確信なく選んでいるうちに、全体のテイストが決まってしまった」ことが原因だったようです。
仕上げ材の決定に加え、その途中での追加見積りの提示方法にもお互いの意見の相違があったことで、こんがらがってしまっているようでした。N社側の意見は、同じリフォームのプロとしてわかる部分も多いので、なぜ彼らがそのような方法でデザインを進めてきたのかを事前に説明しながら、改め伺ったSさまのご意見をN社側に伝える通訳的な役割をしながら打合せを進めてゆきました。
僕らはよくリフォーム設計者が進めるように、「まず床の素材を決めましょう。それから順番に壁、建具と造作家具、そして照明を」という進め方は普段からほとんどしていません。全体の素材候補を見て頂きながら、色々なイメージ写真を見比べて貰って、それらのデザイン的な傾向を分析し、そのイメージに似た空間を作るのであれば、こういった素材を組み合わせると良いのではという方法を使っています。写真は白とグレーとライトブラウンを基調にして、アクセントとなるレザー調や強い木目の素材を組み合わせたイメージを見て貰っている様子です。
少しずつ、部分部分で素材を決めてゆくのではなく、何度も同じレベルで素材の組み合わせを見て貰い、お施主さまの素材や仕上がりに対する感覚が熟成されてゆくのを一緒に横でお話ししながら待っているような感覚です。その途中でも、お施主さまが好きそうな素材があれば、改めて提示して、それらがそれまでのどのテイストに合いそうかのお話もしてゆきます。
なるべく僕らがこれまで設計してきた空間の施工写真をお見せしながら、その時の素材の組み合わせに新しい素材を入れ込んだ様子を想像して貰うようにしています。
天然素材の突板や模様が入った大理石などについては、過去のサンプルをお見せしても、同じものが手に入る可能性はほとんどないので、なるべくその時点で手に入るベストと思われる素材サンプルをお見せするようにしています。こちらでは、ウォールナットの縮み柄模様が付いた突板と黒檀の突板ロールのサンプルをN社側で用意してくれたものを確認させて貰いました。黒檀については、実際に使うツヤで塗装して貰わないと実感がわかないので塗装サンプルを作ってもらうことになりました。縮み柄のウォールナットはお施主さまの僕らも気に入ったので、ほぼ採用が決定いたしました。
N社のショールームで、N社の担当スタッフの前だけでの打合せだと、お施主さまの本心が伺えないこともあるので、数回に1回は僕らだけでお施主さまのご自宅に伺って、そこまでのプロセスが良いか、問題点があるとすればどんなところか、僕らの施工事例を見て頂きながら、現時点で選んでいる素材を組み合わせた場合、どの事例に近いようなイメージになりそうかなどをお話させて貰っています。
N社側でも仕上げ素材を設計に落とし込んだCGパースを作ってくれています。パースを見ながら、違った素材を使った場合のイメージや、家具と照明などについても打ち合わせを重ねてゆきます。
改めて仕上がった来た黒檀の塗装サンプルと白系の大理石、それにフローリングや輸入壁紙などを重ねて素材同志のマッチングを確かめてゆきます。
暗くなってからのN社ショールームでの打ち合わせだけだと、素材を日中に見た時のイメージが掴めないので、現地に各種素材を持ち寄って確認してゆきます。
決まったと思っていた素材が思わぬ影響で変わったり、暗い中で見ていた時には魅力を感じなかった素材が、明るい現場に置いてみたら、思わぬ魅力が発揮されて検討に上がってくることもあるのが不思議なところです。
メインとなるリビングダイニング、キッチンや玄関ホールだけでなく、トイレや洗面、廊下などのサブの空間についても、実際にその場に素材を持ち込んで確認してゆきました。こちらの写真は、うちのスタッフの竹田さんがSさまのご長男と子ども部屋のイメージをお話している様子です。Sさまは、N社が子どもをうまく巻き込んでくれていないこともにも軽い不満を持っていらっしゃったので、僕らは(いつもと同じですが)子どももなるべく一緒に打ち合わせに参加して貰い、特に子どもの部屋の仕上がりイメージをきちんとヒアリングしてゆくようにいたしました。
ここまでである程度の仕上げ材や照明計画が決まってきたので、契約着工前に見積りの増減を纏めて貰うことになりました。