Blog建築家が考える
プレミアムリフォーム・リノベーション

Architects think of Premium Reform & Renovation

高級マンションリフォーム・リノベーションの設計とデザインについて。
そのプロセスとノウハウを余すところなく公開しています。

マンション竣工時の青焼き図面チェック_乃木坂U邸

乃木坂U邸

新規プロジェクトが始まります。港区乃木坂の築20年、130平米のマンションの寝室3室を除いたフルリフォームプロジェクトです。新しいプロジェクトが始まる際のまず最初は、弊社事務所でのお打合せとなります。不動産仲介会社が作ったものでも結構ですので、図面をご持参頂いてリフォームについてのお話しをさせて頂きます。具体的な間取りのお話しをすることもありますが、リフォームを進める際の心構えやこちらのスタンス、他のリフォーム会社との違いなどを、1時間半から2時間ほどかけてご説明致します。そこで具体的にリフォーム案作成を進めたいとのお話しで、両者が合意した場合、まずはマンション管理会社(管理人)にご紹介頂いて、お部屋をご一緒に内覧させて頂くと共に、建物竣工時の青焼き図面をチェックさせて頂くことからスタート致します。今回の乃木坂U邸プロジェクトでは、ご購入なさったお部屋が賃借人付きでお部屋の中に入ることができないので、まずは図面確認だけからスタートとなりました。

マンション竣工時青焼き図面確認_平面詳細図

リフォーム計画を進める上で、欲しい竣工時図面は色々とありますが、まずは平面詳細図が一番欲しいものとなります。特に、今から20年ほど前の2000年前後位から、大手組織設計事務所や大手ゼネコンが手掛けるマンションは図面がCAD化(手書きではなくコンピューターで描いた図面)しており、施工精度も上がってきているので、CAD図の平面詳細図があれば、現場を実測しないでもほぼ正確な平面情報として使えるものとなっています。この図面は壁の仕様などが示されておらずそれほど細かくはありませんが、それでもこのレベルの図面があれば、こちらの事務所で改めてCADで図面を起こして、リフォーム計画を練ってゆくことが可能となります。

マンション竣工時青焼き図面確認_給排水衛生設備図

次に欲しいのが、給排水衛生設備図となります。水回り(キッチンや洗面、浴室やトイレ)の給水給湯と排水がどのように天井裏、或いは床下で流れているのかを示す図面です。水回り設備は全く移設しないリフォームの場合には必要ないこともありますが、少しでも水回り位置を変更する可能性がある場合は欲しいものです。今回のように置床システムを使ってコンクリートスラブ(床構造となるコンクリートの板のこと)上で配管されている場合は、この図面が無くても何とか推察することができますが、築古マンションで、床スラブ下配管(下の階の天井裏で配管している場合)やシンダーコンクリート(嵩上げ軽量コンクリート)で配管が埋められている場合などは、この図面がないと、先行解体してみないと水回りについては設計を始めることができなくなります。

マンション竣工時青焼き図面確認_当該階床伏図

給排水関係の図面と一緒に確認したいのが、この当該階の床伏(ユカブセ)図です。マンションの床下のコンクリートスラブでどの部分がどの程度凹んでいるかを示す図面で、これがあることで、水回り設備からの排水のルートを考えることができます。因みに、当該階だけではなく、上階の伏図もあると、天井裏の高さの参考になるので、こちらも助かります。

マンション竣工時青焼き図面確認_当該階床伏図共通事項

床伏図には、このような特記事項が印されており、上記の床伏図のハッチが掛かった部分がどの程度他の床スラブから下がっているかを知ることができます。因みに特記のSL-100とは、ハッチが掛かった部分のスラブの上端が標準スラブレベルから100mm(10センチ)下がっているという意味となります。

水回り移設リフォームで忘れてはいけないのは、こちらの換気図です。天井裏でレンジフードや換気扇からの排気がどのルートを通って外部へと繋がっているかを図示したものです。この図面からは、浴室と洗面は2室タイプの換気扇が入っていることや、キッチンは同時給排気タイプのレンジフードではないことなどが分かります。水回り設備を移設する場合は、換気ルートも変更することになるので、こちらの図面は要チェックとなります。通常は空調(エアコン)図と一体になって、空調換気設備図と呼ばれます。

マンション竣工時青焼き図面確認_空調換気設備図

別立てだった空調プロット図はこちらです。エアコンを移設する際、冷媒管は大体何とかなりますが、ドレイン管(冷房使用時のドレイン排水の管)は水勾配が重要なので、どこに流すかのルートを事前に検討しておく必要があります。

マンション竣工時青焼き図面確認_矩計(カナバカリ)図

もう1枚、断面方向の寸法が分かる図面もあると、設計検討がより正確になります。こちらの図面は断面図と呼ばれるものですが、矩計(カナバカリ)図と呼ばれる、より詳細な断面図があると、間違いのない設計ができます。また、今回は低層マンションなので関係ありませんが、高層マンションの場合はスプリンクラー等の非常設備の図面も欲しい所です。
以上を纏めると、リフォーム計画を進める上での必要な図面のリストは以下のようになります。

①平面詳細図
②給排水衛生設備図
③空調換気設備図
④床伏図(当該階及び上階)
⑤断面図又は矩計図(カナバカリズ)
そして、これらに加えて、
⑥ガス配管&床暖房図
⑦電灯コンセント設備図
⑧インターフォン電話LAN等の弱電設備図
⑨スプリンクラーを含む非常設備図

があれば、より正確な設計ができる条件が整ってきます。

(以下は乃木坂の図面ではありませんが)青焼きの図面と言っても普通の人はどんなものかご存じない方もいらっしゃると思いますが、大型プリンター(プロッター)が無かった時代は、マンションのような大きな建物の図面は、大型サイズのトレーシングペーパー(A2サイズやA1サイズ)に鉛筆で手書きで図面を書き、それをジアゾ式複写機(通称青焼き機)で複写していました。大型の図面を安価に複写できるので便利でしたが、紙が薄いことや大型の図面を本綴じしているものを、色々な人が使っているうちに紙が破けてしまったりして、結構扱いが大変なのです。大型の図面集になると、一冊で100ページ以上、10キログラム以上にもなり、それを捲りながら必要な個所を撮影してゆくのです。

マンション竣工時青焼き図面確認_縮刷版

最近はこちらのように縮刷されたものがある場合もありますが…、

マンション竣工時青焼き図面確認

大型高層マンションとなると、この書棚全てがマンション竣工時の図面集となり、その中から必要な部分だけを探す作業となります。

マンション竣工時青焼き図面確認_青焼き図撮影

リフォームに慣れたマンションですと、管理室の打合せテーブルを使わせてくれることもありますが、一般的には図面を貸し出したり、持ち出すことは禁止されており、暗い倉庫の中でページを捲ることも多々あります。上からの照明一灯だけだと、この写真のように自分の手の影が入ってしまい、撮影に苦労することも多いのです…。
その点、今回の乃木坂のマンションの管理人さんはとても親切で、明るく広々としたロビーで撮影しても良いと言ってくださったので、とてもスムーズに図面調査をすることができました。

竣工図調査のまとめ

今回は、担当スタッフの竹田さんと僕、各務だけでお客さまには同行して貰っていなかったので、図面調査の結果を簡単に纏めた報告書を作って、お客さまにお渡しいたしました。乃木坂U邸は、幸先の良いスタートが切れて、気持ちもフレッシュに設計を開始できそうです!Uさま、どうぞ今後とも宜しくお願い致します。