カガミ建築計画の設計では、一般に引き込み扉を多用しています。引き込み戸は壁の中にポケット状の戸袋を作り、引き戸がその中に収納される仕組みになっています。扉を開いたときに、扉自体が隠れて見えなくなるので、使いやすく、かつ空間がスッキリ見える効果があります。
こちらは8年ほど前にお手伝いした赤坂S邸のリビングと寝室間の引き込み戸です。木製の扉が、グレート白い壁の間のポケットにすっぽりと引き込まれていることが分かります。上吊りレールを使っているので、上部には引き込み用の金属レールが見えてきますが、下には何もありません(この事例では床仕上げ材がフローリングとカーペットと変わっているので、真鍮の見切りがチラリと見えていますね)。
こちららは2年前の関西I邸のリビングから廊下への引き扉です。枠無し(実際には上枠と引き込み側の枠はあるのですが、隠しています)で作っているので、オープンにした場合は上にレールが見える以外は余計なものがなくなるので、リビングから廊下が一体の空間として繋がってきます。
こちらは珍しい、2連の引き込み戸です。左側の建具は真ん中の壁を通り抜けて、右側の扉と同じ右側の戸袋ポケットに収まる仕組みです。
さて、このように空間的に使い勝手が良く、開き扉のようにその軌跡分の空間を無駄にしないメリットがある引き込み戸ですが、その枠を作るのはかなり面倒な作業となります。
引き込み扉にすると、壁の厚みを大きくして、戸袋ポケットを作ることになります。壁厚が大きくなると、その分部屋が狭くなるので、コンパクトお宅では、その点は注意深く検討した方が良さそうです。今回の文京区S邸は、マンションながら延床280平米超えの大型住戸なので、その点大丈夫そうです。
以下、工事での引き込み戸枠の作り方の解説です。
LGS(軽量鉄骨)で作った壁下地に木製の枠下地をつけています。今回は片側をLGS、片側を木軸で作る施工会社の青が考案した方法で作ってもらっています。大工はお馴染みの矢野さんです。
三連で引き込み戸が続くマッドルーム(玄関土間コーナー)です。全ての扉が同じサイズなので、上枠が一直線に揃っていますね。
ここに三方枠(3方枠)を取り付けます。三方枠という言葉、カガミ建築計画のブログでは良く使いますが、一般には扉の上部の横材、左右の縦材1本ずつを合わせた門型になった建具枠のことを三方枠といいます。掃き出しでない窓では、下枠も含めて四方枠(4方枠)といいます。
現代製作所が作ってくれた三方枠の部材がこちらです。上の二本が引き込み側の枠(真ん中に引き込み扉が通るので、2つに分かれているのです)で、下が上枠です。上枠は開口部で見えてくる部分は壁厚分の太さがありますが、引き込まれる戸袋ポケット分は上吊りレールを埋め込むだけの最小限の幅となってきます。
アップで上枠をを見た写真です。通常は枠材や扉材は、軽く施工しやすくするためにフラッシュ材(内部が空洞になっている材料)で作ることが多いのですが、こちらのお客さまは無垢感や重量感がお好みの為、ベタ芯(中までベニヤ材が詰まっている)に突板を張った枠で作ってもらっています。
横枠と上枠を組み上げた様子です。この状態ではシナ突板仕上げとなっていますが、現場塗装で仕上げる予定となっています。木枠の小口(断面)部分は塗装仕上げにする際に塗料の吸い込みが強いので、枠を組み上げる前に、小口部分だけシーラーを塗布していますね。
引き込み扉で難しいのは引手部分のデザインとなります。完全に扉を引き込んでしまうと、扉を引き出すのが難しくなってしまうので、少し引き残しを作るのが定番ですが、弊社デザインの場合は、特注の取っ手を作って完全に扉を引き込めるように考えています。ただ、そのようなデザインにすると、引手の隙間部分から戸袋ポケットの中が覗き込めてしまうという問題あるのです。後から狭い戸袋ポケット内にクロスを張ったり、塗装をするのは難しいので、青では最初から白いポリ合板を張る工法を工夫してくれました。上の写真の右側に立てかけられている梯子状になっているパネルの裏面を見ると…、
こちらも白いポリ合板で仕上げてくれています。
その白ポリ仕上げのパネルで戸袋ポケットを作ると、左右両面供が白く仕上がった戸袋になるという仕組みです。
扉自体は上吊りで2ウェイのソフトクローズ機能付きのシステム(扉を開けるとき、閉めるとき、どちらでも最後の少し手前で開閉動作が自動的にゆっくりになる機能)を使いますが、戸尻で扉が枠にあたることを防ぐために、このようなゴム製のバンパーを設置してくれています。
これで開口部以外の壁部分に石膏ボードが張られてくると、引き込み扉枠が完成となる訳です。枠は傷つきやすいので、仕上がった先から紫色の養生材で保護されています。
因みに、引き込み扉のデメリットは、先に書いた①扉を引き込むスペースが余分に必要になること以外に、②気密性や遮音性が低いこと、③戸袋の掃除がしにくいことが良く挙げられています。③についてはお子さまがイタズラをするようなことが無ければ、問題になったことがありません。②については、事前にお客さまに説明をしておくこと、また必要に応じて、引き戸用のエアタイト(扉を閉じると扉と床との隙間を塞ぐ特殊機能が下りてくるシステム)を使えば、アンダーカット部分を閉じることができます。ただ、アンダーカット部分を通気を確保するために必要とされている機能でもあるので、代替えとしてどこかに通気トンネルを作る必要があります。