Blog建築家が考える
プレミアムリフォーム・リノベーション

Architects think of Premium Reform & Renovation

高級マンションリフォーム・リノベーションの設計とデザインについて。
そのプロセスとノウハウを余すところなく公開しています。

天井隠蔽型エアコンの吊り方

文京区S邸

エアコン(=空調機)には幾つかのタイプがあります。一番良く見るのが「壁掛け型エアコン」ですね。価格もピンからキリまでありますが、総じて種類が豊富で費用対効果が高く、かつ取り付けも容易です。壁掛け型エアコンで冷媒管とドレイン管を露出させず、建築の壁や天井裏に隠す隠蔽配管スタイルで取り付けることもあります。また、エアコンの効率が悪くあまりお勧めできませんが、造作家具や壁を凹めた奥に壁掛けエアコンを設置したり、その前にルーバーなどを設けて完全に隠してしまう方法もあります。

それに対して、最初からエアコンを壁や天井に埋め込んで、立体として目立たせないスタイルのエアコンが、「壁埋め込み型」や「天井カセット式エアコン」となります。「壁埋め込み型」は、エアコンメーカー側からグリルも提供されており、壁掛け型と比べるとかなり目立たなくなりますが、種類が貧弱なのが玉に傷です。「天井カセット式エアコン」は吹き出し口の数によって、一方向や2方向、4方向タイプトバリエーションがあります。ここまでくると、取り付け方法も複雑になってくるので、普通の家電量販店などには販売されておらず、業務用(パッケージ)エアコンと言われる専門施工会社を通じての購入となります。最近の高級マンションのリビングダイニングなどでは、この天井カセット式エアコンが使われるようになりました。壁掛けエアコンに比べれば箱型のボリュームが見えてこないので、かなりエアコンの存在感が薄れてきます。ただ、真下から見ると天井カセット式エアこのフェースは機械的で気になる方がいらっしゃることも確かです。そんなお客さまにお勧めしているのが、「天井埋め込みダクト型エアコン」(天井隠蔽型エアコン)です。エアコン本体は完全に天井裏に隠れ、そこから天井裏ダクトで繋がった吹き出し口と吸い込み口だけが見えてくるスタイルです。

以前弊社でお手伝いした渋谷区Q邸のリビングルームです。天井に赤丸をした2か所に吹き出し口があり、青丸をした一か所が吸い込み口となっています。細いブリーズライン(細長い開口形状の空調吹出口と吸込口)しか天井面に見えてこないので、インテリアを設備が邪魔する度合いは最小限に押さることができます。因みにこちらのプロジェクトでは、エアコン本体は廊下にある機械室にあるので、通常の天井隠蔽型では見えてしまう天井点検口が無いので、特にすっきりして見えますね。
それでは、以下このような天井がスッキリと見える天井裏にエアコン本体を隠蔽し、ダクトで吹き出し口と吸い込み口のブリーズラインと接続するスタイルの空調システムをどのように組んでゆくかを写真で順を追って説明してゆきます。

まずは天井の一角にエアコン室内機を天井から吊ります。室外機はマンションの専用室外機置場に置きますので、そこまでの冷媒管のルートの確認と、冷房&除湿運転時のドレイン管の排出場所とそこまでの勾配を検討した上での設置場所となります。

エアコンの吊り込みは躯体コンクリートからの新規打ち込みアンカーで吊っています(マンションの管理規約で新規のアンカー打ちが許可されていることを確認の上での作業です)。

エアコン室内機にダクトを接続していくのが次の作業となります。

吹き出し口と吸い込み口の位置レイアウトをする必要がありますが、基本的には吹き出し口を南側に面した窓の近くに持ってきて、吸い込み口はその吹き出し口から見て一番遠い北側の壁面近くに持ってきています。

同じようなフレキシブルダクトを使っていながら、全熱交換機(排気時に捨ててしまう室内の熱を回収して、給気してきた空気に戻すことで、温度変化を抑えながら換気ができる優れものの設備)は全く違う考え方なので、空調機のダクトを横断するようにして、部屋の一番隅っこのコーナーへと伸びています。

リビングダイニングには3台の室内機がつられていますが、個室やファミリールームは1台の室内機となるので、吹き出し口と吸い込み口のレイアウト位置を工夫する必要があります。エアコンの無い土間廊下スペースにも空調が効くように、ファミリールームの吸い込み口は土間廊下のかなり先に持ってきています。こうすることで温度調整された空気が広く住戸内を回るように工夫しています。

一通りのダクト設定ができたところで、天井のLGS(軽量鉄骨下地)が組まれてきます。

こちらの写真はダイニングスペースから玄関を見たアングルです。

リビングエリアには2つの折り上げ天井がありますが、天井の懐(天井裏のスペース)にある程度の余裕を見て設計をしているので、折り上げ上を吹き出し口用のダクトが走っています。

そうこうしている内にチャンバーボックス(空気の分岐や合流を行う箱のこと。ダクト内を流れる空気の気流の乱れを安定化させる役割も)が現場に届きました。今回はほとんどが特注品となっています。

アルミで作られた箱で、横面には丸い空気の流入口があり、下面(この写真では逆さまに置かれているので上面)に吹き出し口があります。ボックスの内部は良く見えませんが、内側に断熱材のグラスウールが張り付けられており、保温・結露防止・吸音などの役割をしてくれています。

横から見ると、このような形状になっています。出っ張った下の箱の内部に断熱材が入っているのです。

LGS下地の横に全ねじを切られた鉄棒が何本も並んでいますが…、

これらはチャンバーボックスを天井から吊り込むためのアンカーボルトなのです。チャンバーボックスの上面に小さいものでは2本、長いものでは3~4本で吊ることになります。

LGSで組まれた天井下地の合間に、チャンバーボックスが吊られていますね。

そして天井面を仕上げる石膏ボードが張られた状態での吹き出し口です。今回は天井と壁は塗装下地用クロスを張る仕上げとなっていますが、石膏ボードは二重張りとなっています。石膏ボードを張った後で吹き出し口と吸い込み口の位置の施工ボードをカッターで切り抜くとこのようになるのです。

赤い楕円で囲まれた吹き出し口と青の吸い込み口はありますが、天井面全体に石膏ボードが張られると、これだけすっきりと見えてくるのです。あとはここにブリーズラインと呼ばれる細長い開口形状の空調吹出口が取り付けられるとほぼ完成となります。