しばらくご無沙汰していた銀座のエルメス・ジャポンの2階のメゾンエルメスの家具の新作を見学に伺ってきました。

同じ欧州の高級家具でも、いわゆる家具屋のハイブランドのミノッティやモルテーニ、ポルトローナフラウやポリフォームと、ファッションブランドのエルメスやルイ・ヴィトン、アルマーニやロロピアーナが作る家具はかなり性格が違っています。

メゾンエルメスを始めとするファッションブランドの家具は、ファッションアイテムと同列な考え方で、トレンドを重視したデザインや、ブランドのイメージを強く打ち出した家具が多くあります。一方、ハイブランドの家具は、高品質な素材を使い、使い勝手の良さやスタイリッシュさを重視しています。

同じソファでも家具ブランドであれば、形や張地のバリエーションを多くそろえ、色々な形に組むことが得意ですが、エルメスの場合は、形のバリエーションはせいぜい3つほどで、張地も5種類ほどしかありません。その代わり、どの張地を選んでも、一目で「あぁ、エルメスね!」と思える世界観が込められているのです。

このセリエソファの横の収納スペースの素材感やデザインやディテールは、エルメスそのものなのです!

このダイニングセットはパッと見は北欧家具のようにも見えますが、座ってみた時の木目の肌さわりや、見えない箇所に費やされたディテールの数々は、なぜこのようなところに拘るのかと思えると同時に、このようなところにまで拘るから、エルメスの洋服やカバンなどのファッションアイテムがここまで際立ってきたのだと思えるのです。

例えばダイニングチェアの上に何気なく置かれているレザー張りのクッションは、背部にレザー製の凸部が作られており、それが座面の穴とピタリと合って、クッションを置くとまるでマグネットで水津家ら鷹のようにスッとはまり込むのです。

テーブルの裏を見上げたところですが、天板の端部ではテーパーは切りつつ、しっかりとした厚みを持たせていますが、脚が接合された部分は大きくえぐり込まれています。こうすることで、人が座った時に膝がテーブルの構造フレームにぶつかり難くしているのだそうです。

こちらはレザー張りの書斎テーブルです。ブーメランの形になっており、仕事も打ち合わせもしやすいレイアウトですが、天然レザー張りの天板の上に直接紙を置いてボールペンで手紙を書いたら、紙は破れやすいし、レザーも凹んでしまいそうです…。でもそんな野暮ったいプチ・クレームを寄せ付けない気高いオーラがあるのです!

例えば、この天板端部のディテールだったり、裏目には張り込む必要が無いレザーが裏面までびったりと張られていること、そんな職人技の細かい気配りやディテールの積み重ねと、エルメスのプライドがオーラを生み出しているのです。

価格が工場生産のハイブランド家具の倍以上することは、手作業で作ることから十分理解できますが、納期が全く不明という凄い売り方もまた驚かされるところです。家具ブランドであれば、イタリアで作って船便で送られるので、待たされたとしても6か月程度となりますが、エルメスの場合は納期不明なのです。実際、現在設計進行中の城南S邸では、このダイニングテーブルとチェアをお客さまがオーダーしてくださったのですが、納期ははっきりと言えないが、おそらく2年以上は掛かるでしょうと言われているのです…。

テーブルの大理石天板は石種が選べ、脚に巻いているレザーの色、チェアの木部の色とレザーの色がこのデータのように選べるようになっています。

Sさまご夫妻からは、現在制作中のダイニング部分のCGに2種類の色のレザーと木部を組み替えたダイニングセットを入れてみて貰えないかとのことで作ったのはこちらのCGとなります。「CGがあることでどのようになるのか想像しやすいけど、どれも素敵なので、結局迷うことは一緒でした(笑)」とのことでした。

ショップのタイル張りのコーナーに1本のベンチが置かれていました。

レザー張りの部分は両端が長手方向に引き出す引き出しで、木部は手前に引き出す引き出しとなっており…、

馬具からスタートしたエルメスらしく馬具のディテールを参考に作られていました。端部は引き出し小口にまでレザーが巻かれており、引き出しを閉めるときのスッとはまる感覚が何とも言えないのです。馬具の製作から始まったブランドらしい細かいこだわり満載のベンチなのです。どこかのプロジェクトの大きな玄関ホールでご提案してみたくなりました。

床から一段上がったこちらのコーナーに展示されているのは天然のシープスキン張りのソファです。実際に座らせて頂くと、包まれるような柔らかさでそのままにムってしまいそうですした。こちらのソファは2シータと2シータがあるそうです。

家具だけでなく、フォトフレームやテーブルライト、クッションやティーセット、持ち運び式のベンチなどもあり、全ての家具セットをエルメスで揃えるというより、本当に気に入った小物からスタートして、その世界観を楽しめる、ある種のセレクトショップのような考え方になっています。

銀座エルメス店2階の一番奥には、エルメスの兄弟会社のサン・ルイの照明も展示されていました。下台に置かれた灯具のうち手前の2灯はUSB充電式の持ち運び式ランタンです。

壁面には単独でも或いは枝(?)とひとつながりになったウォールランプも展示されていました。今回はエルメスの弊社担当営業の一木さんから、一つずつの家具や小物、灯具の説明を聞かせて貰いましたが、こだわりのポイント(それも一つではなく、複数のポイント!)を聞くたびに、ため息が出るような見学になりました。写真だけを見て価格を聞くと、それだけで怖気づいてしまいそうですが(笑)、何かを一つ購入することで、そこから広がる愉しみを手に入れると思うと、意外と安いのかもしれませんね…。