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プレミアムリフォーム・リノベーション

Architects think of Premium Reform & Renovation

高級マンションリフォーム・リノベーションの設計とデザインについて。
そのプロセスとノウハウを余すところなく公開しています。

ニューヨークの豪邸設計事務所チコニャーニ・カラ再訪

ニュース

ゴールデンウィーク明けにニューヨークに行ってきたもう一つの目的は、1994年から約2年間修業をさせて貰った豪邸設計に特化したCicognani Kalla Architects(チコニャーニ・カラ設計事務所)を始めとする設計事務所を再訪することでした。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

7年ほど前まではほぼ毎年ニューヨークに出掛けて、毎回昔の事務所に顔を出していましたが、コロナのことと娘の学校の関係で、しばらく訪問できておりませんでした。しかし、ひとたび顔を出したら、昔のボスのピエトロ・チコニャーニは笑顔で迎えてくれて、以前と変わらない下らないジョークを連発してくれました(笑)!

チコニャーニカラ設計事務所再訪

昔働いていた古い建物は取り壊しになってしまったので、僕は働いたことのない事務所でしたが、パソコン(僕の頃はまだ手書きだったので代わりに製図盤)と天井から吊るされた自転車(ピエトロのトレーニング用とのこと)以外の什器は昔と同じで懐かしい雰囲気でした。

因みにこれが、30年前に昔の事務所で働いていた頃の僕(30歳ちょと前)です…。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

かなり忙しい中で、僕らの訪問のために2時間ほどの時間を取ってくれて、どのようなプロジェクトが今動いているかを説明してくれました。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

元々は、マンハッタンのマンションリノベーションと、同じお客さまのニューヨーク郊外の別荘の新築設計が主な仕事でしたが、今はピエトロの生まれ故郷のイタリアでの仕事もかなり多いとののことで、パソコンのモニターで見せてくれたのは、アメリカ人のお客さまがベネチア市内で古い礼拝堂を購入して、それを住居にリノベーションするプロジェクトでした。
小さな礼拝堂でしたが、外観は残しつつ、内部はほぼ全て作り直し、扉の取っ手から水栓、造作家具からガラス窓まで全てカスタムメイドの特注品というコダワリのプロジェクトでした。イタリアの建築費はアメリカの三分の一程度とのことでしたが、イタリア価格で7億円、ニューヨークに換算したら、20億円(建築費でインテリアは含まず)という超高額プロジェクトでした。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

こちらの女性スタッフが見せてくれたのは、郊外の高級別荘地のハンプトンの鶏小屋プロジェクトでした。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

写真はCKAのホームページから拝借したものですが、別荘に付随した鶏小屋だそうで、珍しい鶏を沢山飼っているお客さまの為に特別に設計したそうで、鶏小屋と周囲のランドスケープだけで1億円もの費用を掛けたと嬉しそうでした。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

こちらもイタリアのトスカーナの海岸沿いに3軒の新築住宅を設計するという約10年掛かりのプロジェクトとのことでした。既に1軒が建っており、2軒目が建設中で3軒目はこれから設計とのことでした。一つの住宅で地階も含めて1000平米でそれぞれ古典的なデザインながら、内部の設備は最新のものとなっているとのことでした。
このプロジェクトで何よりも驚いたのは、僕が昔在籍していた頃からお付き合いのあったお客さま一家がクライアントで、その頃のお客さまは亡くなられたそうですが、その兄弟、子どもたちと連綿と仕事が続いており、このプロジェクトもその一家のプロジェクトだったということです!その一家のプロジェクトを全て合わせたら、5~60億円もの費用を任されているだろうとのことでした…。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

事務所の机レイアウトは4つの机の真ん中に打合せテーブルがあるスタイルとなっています。ちょうどピエトロの友人で、かつノグチ財団の理事でもあるアヌージュ・プリーさんが来ており、お話を聞かせて貰いました。アヌージュさんは、元々は設計事務所に勤めていた建築家だったそうですが、今はクライアント・リプレゼンタティブ(施主代理人)、つまり大きなプロジェクトで、発注者(クライアント)側の立場で、専門的な知識や経験を持ってプロジェクトをマネジメントし、設計者や施工者、コンサルタントなどとの間を取り持つお仕事をしているとのことでした。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

真ん中のテーブルに置かれている多様なサンプル類です。エアコンやコンロといった住宅設備や窓などの性能が重視される部品はさすがにカタログから選ぶようですが、仕上げ材や金物類はほぼオーダーで作るので、二度と同じものが作れない職人技のものばかりでした。ただ、イタリアにはまだそういった職人さんが残っているそうですが、アメリカではほとんどいなくなってしまったそうで、特注素材によっては外国にオーダーすることも多いとのことでした。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

廊下の素材置き場の棚に置かれているものは、ワン・アンド・オンリーの素材ばかりでした。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

昔からあまり変わっていないように見えるカタログ棚には、マーヴィンやブルム、ルートロンといった定番のものに交じって、日本のTOTOやスガツネなどのカタログもありました。

チコニャーニカラ設計事務所再訪

ピエトロは僕より15歳ほど上なので、70代前半のハズで、引退の予定を聞いてみたところ、「引退なんて退屈だから、死ぬまで設計する!」と息巻いていました。昔のパートナーだったアン・カラはもう15年ほど前に亡くなって、若い建築家のアルバート・ベッツさんをパートナーにしているので、近いうちに、事務所名からカラの名前をなくして、チコニャーニ・ベッツという名前に変更することも教えてくれました。アメリカの設計事務所は、どこもパートナー制となっていることで、創始者が引退しても、事務所が残ってゆくシステムを作っているのです。
日本では僕も60近くになってくると、転職したり引退する友人も増えてきて、今後どうすべきかを考え始めなくてはと思っていましたが、ピエトロと話をしたことで、まだまだ現役の設計者として頑張ろうという気持ちになりました!