Author Archives: Kenji Kagami
2025.09.17
集合住宅の原型_客家土楼に学ぶ共同体の形-1
[見学記]
福建省厦門(アモイ)郊外で大理石を探すツアーに行った最終日、以前から行きたいと願っていた客家土楼(はっかどろう)を見学してきました。

客家土楼は中国南東部の客家(ハッカ)の人たちが、山の中に建てた一族で暮らすための集合住宅です。歴史的に客家の人たちは中原から戦火を逃れてこのエリアに移り住んできましたが、周りの人たちと溶け込まず、人里離れたエリアに自給自足で暮らすスタイルを選びました。強盗や野獣から身を守るために周りを土壁で囲んだ中に暮らすという生活スタイルで、当初は大きめの住宅のような建築様式でしたが、一族の人数が増えるに従い、建築を進化させて、方形(四角)や円環状の土楼へと発展してきたそうです。特に福建省に集中しているため福建土楼とも呼ばれています。

以前に福建省に大理石ツアーで行った際には、厦門市内から往復で丸一日掛けても回れないといわれて諦めたことがありましたが、世界遺産となり観光客が増えたことで、新しい高速道路が通ったとのこと、一日のツアーで幾つかの土楼を回ることができることが分かり、大理石ツアーのメンバー全員で行ってきました。

下を歩いている人と比べることでその巨大さが分かりますね。この土楼は「土楼の王」とも呼ばれる承啓楼です。直径約側73メートル、高さ16メートル、外周部は4階建てという大規模の土楼です(サイズ的にはもっと大きな土楼もあるそうです)。

小さな入り口が三か所あり、焼きレンガで作られた入り口を通り抜けると、4層の円環構造になった内部が現れます。外から見るとスケールオーバーで人を避けるような建物に感じましたが、内部に入ったときの空気感や屋根が複雑に重なった様子、そしてあらゆるものがごった返した感じは、まるで一つの建物の中に町があるような感覚を覚えました!

外環部分は外壁が土製の版築(土を枠に入れて突き固めた)壁で、内側が木製の4階建てとなります。

階段が4か所にあり、上階の住居部分へと上がってゆくことができます(この土楼は宿泊する人以外は上階には行けないのですが…)。階段は折り返し型で、上階は中廊下型となっています。

1階部分ももとは住居でしたが、今は窓台を開閉式のお店にしたお土産物屋さんやお茶屋さんとなっています。

2重目の円環(中環)は、主に共用の水回りとなっています。手前の開口部奥には洗濯機が見えますし、その右には中華鍋が外壁に吊るしてあり、シンクもありますね。奥にはトイレもありました。水回りは個人のものではなく、皆で共同で使うスタイルとなっています。以前はキッチンは外環の1階部分にあったそうですが、観光地化された承啓楼では住む人の人数が減ってきたことで、機能も移ってきているようです。

外環と中環の間の床は、このように凹凸が付けられ、雨水や生活排水を流すシステムとなっています。今はトイレは汚水管に接続され、水も給水管が来ているようですが、以前は、全て自然排水で、給水も土楼内に掘られた井戸から供給されていたそうです。

中環の内側には3層目の円環(内環)があり、かつては共用部として使われていた小部屋が並んでいます。外環で使われている壁材は土を干して固めた日干しレンガなども使わていましたが、内側に入ってくるほど、焼成されたレンガや石などが使われて、より耐久性が強くデザイン性も強くなっています。

中環から内環へ抜ける通路は下部は焼成煉瓦ですが、上部は日干し煉瓦ですが…、

中環から内環への通路となると、全てが焼成煉瓦となっていますね。

煉瓦積みのパターンもとてもきれいなのです。

4層目の円環が、一族のお社である祠堂です。

祠堂は中庭型のオープンなお社となっており、特別な宗教を祭るのではなく、祖先を祀る場所となっています。

ここに住んでいるのは、江(チャン)家の人たちで、1709年に作られてから15代めの人たちで、今も200人ほどの人が住んでいるとのことでした。ガイドをしてくれた女性は、江家にお嫁に来た方で、外環の3階に暮らしているそうです。

祖廟から振り返ってみるとこのように屋根が複雑に絡み合っているのが判ります。

外環の1階部分のかまどがあるお部屋の内部です。かまどの上にも小さな先祖を祀る祠がありますね。

東西には風が通る道を兼ねた一直線に通る道が抜けています。

福建土楼は外側は燃えにくい版築造となっていますが、内部は木造で火事に弱いのが問題で、これまでにも幾つもの土楼が失火が原因で焼けてしまっているそうです。この土楼では、円環状の外観の途中4か所に、版築造の防火壁を作って、延焼を防ぐ工夫をしているそうです。また、スプリンクラーこそありませんが、消防施設も設置されてきているそうです。

円環土楼の承啓楼を出ると、すぐ隣には方楼(四角い土楼)の世澤楼があります。

庇がつばぜりあいをするほど近くに接しているのです。残念ながら、世澤楼は修復工事中とのことで、今回は見ることができませんでしたが、歴史的には四角い方楼の方が古く、円楼の方が後からできているそうです。世澤楼も同じ江一族の土楼だったそうです。版築壁は雨水に弱いので、なるべく庇を大きく出して雨風を防ぐとともに、窓回りは漆喰で固めて、水が入り込まないようにしているのが判りますね。
他の土楼も見学しましたが、長くなりそうなので、続編を書きます。
2025.09.14
安全祈願と工事体制の整備@渋谷区L邸
[渋谷区L邸]
超大型メゾネット住戸リノベーションの渋谷区L邸は、スケジュールの関係から上階から既に解体工事を始めていますが、下階の工事を始める前に安全祈願式(新築戸建て住宅を建てる前に行う地鎮祭的な儀式)を執り行いました。

Lさまの奥さまはご妊娠中ですので、ご主人さまと神主さん、そして関係者一同に集まっての式となりました。左から設計を手伝ってもらっているハクの関さんと後藤さん、三井デザインテック(以下三井DT)の武智さん、各務、ご主人さま、神主さま、三井DT現場監督の坂本さん、三井DTの営業の蛭川さんと設計の風間さんです。

式は地鎮祭とほぼ同じ形式ですが、お魚の鯛や海老といった生臭いものは無しの少し簡略からされた式典となりました。後ろの窓台には、三井DTとカガミ建築計画とハクからの奉献酒が並んでいます。

式の流れも地鎮祭とほぼ同じですが、盛砂を作っての鍬(スキ)入れも省略しています。
大きな流れは以下の通りです。
1.修祓(しゅばつ)
神主が参列者や祭場を祓い清め、まずは場を清浄にします。
2.降神(こうしん)
神様を祭壇にお招きします。参列者は起立して頭を下げます。
3.献饌(けんせん)
米、酒、塩、野菜、果物、海の幸、山の幸などの供物を神前に捧げます(今回は海の幸は無し)。
4.祝詞奏上(のりとそうじょう)
神主が祝詞(のりと)を読み上げ、工事の無事・安全、建物の繁栄を祈ります。
5.四方祓い(しほうはらい)
米・塩・切麻(きりぬさ=紙を細かく切ったもの)を敷地の四方に撒いて清めます。
6.玉串奉奠(たまぐしほうてん)
参列者一人ずつが榊に紙垂を付けた玉串を神前に捧げ、拝礼します。
7.撤饌(てっせん)
捧げた供物を下げます。
8.昇神(しょうしん)
神様を元の御座へお送りする儀式です。
9.直会(なおらい)
最後に、神酒で乾杯し、皆で工事の安全を改めて祈念します。

四方祓い(しほうはらい)は下階だけでなく、既に工事が始まっている上階でも行いました。

こちらは最後の直来の様子です。

一通りの式が終わったところで、お客さまのLさまから、工事関係者へのご挨拶がありました。リノベーションの計画を始めたところで、お子さまが生まれることになり、当初より工事の規模が大きくなったこと、神事を行ったことでとても場がきれいになったと感じたこと、そして工事中の関係者全員の安全を強く望んでいらっしゃることをお話しくださいました。

当日の式の後、まだ工事契約をしていなかった下階の工事のお見積りのご説明をさせて頂いた上で、工事契約も結ばせて頂きました。

こちらは別日の打ち合わせの様子ですが、まだ細かい仕様が決まっていなかった神間(神棚とご仏壇を置く和室)の仕上げ材の打合せです。

本格的な和室にする案もありましたが、工事のお引き渡しが決まっている中で、左官工事や網代組みなどは時間も掛かってしまうこと、また生まれてくるお子さまが小さい間はお布団を敷いてこの和室を使うことなども考えて、和紙調クロスなどを使って簡易的な和室とすることになりました。

三井DTでは、工事契約を結ぶと、そこから営業担当が現場営業担当に変わるシステムとなっていますが、今回の渋谷区L邸はこれまでの三井DTのお仕事の中でも一二を争う工事規模なので、営業の蛭川さんも武智さんも残って、そこに新たにに現場営業の三上さんが加わってくれることになっています(既に上階の解体工事からその体制になっています)。こちらが三井DTの銀座本社での下階の図面の読み合わせの様子です。

設備関係については設計図のみでの打合せでしたが、建具や造作家具に関しては、造作家具屋さんが書いてくれた下図を元に、金属塗装やフローリングのサンプルなどをベースに仕上げサンプルをかなりの数を作ってもらうようお願いしています。

これまでは実務的な打合せだけでその後は解散していましたが、当日の夜は近所の中華料理屋さんに集まって決起集会(実質はただの懇親会ですが)を行いました。

下階も工事が始まり、解体がスタートしています。既存の家具や建具が解体され、

あれよあれよという間にここまで解体されています。左側のビニールで養生されている範囲は、既存のキッチンを再利用するので、フローリングの取り外しは通常の解体よりも丁寧な大工解体を行うこととなっています。

工事が着工してからは、2週間に1回の現場定例打合せを現地で行っています。大工棟梁のKさんや造作家具のAさんからの質疑攻め(笑)です。

現場の解体が全ての部屋に及んでしまうと、現場打合せをする場所が取れなくなるので、後藤さんたちにお願いして千駄ヶ谷のハク・アーキテクツスタジオの新しい事務所の打ち合わせ室を使わせてもらうこともあります。

こちらは前回お願いしていた建具屋家具のサンプル仕上げ材です。同じ塗装色でも仕上げツヤを変えたりしているので、整理も大変なのです…。

これは別日に、各務だけでハクさんの事務所に来て、仕上材を決めてゆくプロセスです。ハクは後藤さんが主に打ち合わせに同席して、僕の補助をしながら打ち合わせメモを作って現場側の問題を解決してくれ、関さんが事務所で収まりの細かい図面を書いてくれる体制で、僕のことをサポートして貰っています。
2025.09.06
想定外の排水管配置、現場で生まれた設計修正力!
[城南R邸]
最近のブログ記事は長くて専門性が高くなりすぎだと感じていますので、最初に記事のサマリーを載せておきます(chatGPTのアドバイスです)。
・完成前CGとほぼ同じ仕上がりに。視覚だけでなく快適さまで再現。
・工事前の先行調査で、PS(パイプスペース)が専有部かどうかを確認し、修正可能と判断。
・現場で予想外の排水管経路が判明。しかし即時に最適な設計修正を提案し、トラブルを回避。
同じマンション内の2住戸リノベーションの城南R邸ですが、色々な事情があって最上階住戸Aが先に完成したとのこと、施主検査に同席させて頂きました。

お客さまのRさまご夫妻も、同行した僕らも、まずは事前に作っていた完成前予想CGとそっくりなことに驚きました。もちろん、窓から見える景色や、窓を開けた時に流れてくる風の気持ち良さはCGでは表現できていませんが、部屋の構成はまさにCG通りでした。

右奥に見ているのが新築お引き渡し時のキッチンです。Rさまが「これはこれで使いやすそうだし、わざわざ壊してリノベーションしなくても良いかな?」といった雰囲気だったので…、

焦って(笑)、担当の前田君作ってくれたCGのビフォーアフターを携帯でご夫妻にお見せしたところ、「やっぱりリノベーションした方がこのお部屋が持っているポテンシャルを十分以上に引き出せるね」と言って頂きました。
内覧時でしたが、マンションデベの担当者にお願いして、リノベ工事をお願いするリフォームキューの坂本さんや設備の槻川原さん、さらには解体業者さんにも同席して貰って非破壊の調査をさせて貰いました。

CGでは予想できなかったのが、こちらの屋上テラスの気持ちよさでした。3方向に開けていて、とにかく広い!
100平米以上の広さをどのように活用するかはじっくりと考えたいところです。

こちらはマンションモデルルームで貰っていた素材情報の再確認をしている様子です。新築リノベーションは、全てを壊さず部分的に工事をするケースが多く、その際に新築時に使われている素材を手に入れることができるかどうかで工事範囲が決まってくるのです。事前に貰っていた情報で取り寄せていたタイルやフローリングが使われているものと同じであることが確認できました。

お引き渡し後にはすぐに壊し始めることになっているので、関係者揃っての記念撮影をお願いしました。左から、僕各務、前田君、Rさまご夫妻、事前打ち合わせ時からお世話になっているマンションデベの担当者のNさま、リフォームキュー坂本さん、新築オプション工事でお世話になったデザイナーのNさんです。

お引渡しされたのが、検査後1か月後でしたが、その1週間後には、部分解体をさせて頂きました(この解体分の工事費はお支払ってもらっております)。まずはイタリア製キッチンのアルクリネアでお願いするキッチンの正確な寸法を理解することが第一優先なので、キッチンと玄関周りを解体してもらいました。
実はまだこの段階では、床フローリングとビニールクロス仕上げの壁と天井をやり直すかどうかは、全体の予算次第で決めることになっているので、解体せずに残しております。

右からアルクリネア(アドヴァン)の藤森さん、前田君、リフォームキューの大工さんです。この段階で、キッチンの最大寸法を確認したいのです。どこを基準にして、LGS(軽量鉄骨)下地をどこまで動かせるかなどを考慮して、無事寸法を決めることができました。

設備的なこともチェックして、対面型カウンターに設置するシンクからの排水もキャビネット下を調整すれば、問題なく流せることが判りました。

見積り的には大きな変更は無しで済むことも判ったので、まずはリフォームキュー経由でキッチンだけを先行発注させて頂くことができそうです。

先行解体は3か所をお願いしており、こちらは主寝室奥のウォークインクローゼットです。モルテーニのクロゼットシステムで作ることが決まっているのですが、既存の図面上の寸法だとぎりぎり、奥さまがご希望してくださっている引き出しが入らないので、壁位置を3センチほどずらすことができるかどうかを確認するために石膏ボードを剥がしてもらいました。
正面左奥のLGSの向こう側は図面上はPS(パイプスペース)と呼ばれるエリアになります。当初マンションデベの担当者にこのPSを使いたいのだがと相談した際は、PSは共用部に当るのでダメですと言われましたが、その後、PSには共用部PSと専有部PSがあり、これはどう見ても専有部PSなので、大丈夫なハズなので調べて欲しいとお願いしたところ、確かにこちらは専有部PSなので、自由にしてくださいと言ってもらえました。
結論としては、PS部分を少し狭めることで、引き出しを入れることができることも判りました!

ここまでとても順調だったのですが、来客用トイレを大きくする為に、トレイを少し奥に移動して、その手前に独立した手洗いスペースを設ける計画を立てていた部分にこちら、設計側の想像と違う部分が見つかりました。この写真の手前部分に灰色の排水管が2本(左側の太いのが便器、右側の細いものが手洗いの排水)あります。ちょうどコンクリートの床スラブの段差内に収まっています。この段差がもっと奥まであるだろうと予想していたのが違っていたのです(新築マンションではお引き渡し前に間竣工図を見ることとができず、床下のスラブ段差位置や給排水の図面を確認することができないのです)。

新築マンションリノベーションで、トイレの床に段差を付けるのはさすがに無いだろうと、現場で前田君と坂本さんと3人で頭を絞って何とかできないかを考えてみました。

左側が元々考えていたプランで、右側が改修案の1です。床排水型の便器ではなく、背面排水型の便器を使って、便器後ろにライニングを設けて、そこから横引きする案です。これであればトイレに段差を設ける必要はないのですが、手前の手洗いからトイレに入る際に、便器横に扉がついているような形で、使いづらいそうです…。

こちらの案2は、その後、前田君が頭を絞って考えてくれた案です。手前の手洗いのレイアウトから変更して、奥のトイレも便器の位置を左右反転させる案です。これであれば使い勝手の不自由さもありません。どちらの案でも洋室のクローゼットが縮小して変形になりますが、実際上のハンガー長さはほとんど変わりがありません。
早速事情をご説明して、費用の増減なしでこちらの案にさせて貰いたいとお伝えしたところ、ご快諾下さりました。お客さまと前田君に感謝です!
最後の纏めも、chatGPTからのアドバイスですが挙げておきます。
・新築マンションリノベでは、CGや図面だけで安心せず、先行解体・調査で現場を見極めることが重要です。
・諦めがちな「PSや配管の位置」も、構造と法的区分を正確に把握すれば最大限活用でき、デザインと機能の両立が可能です。