Author Archives: Kenji Kagami

設計業界では亜流であったリフォーム・リノベーションに、十数年前から真剣に取り組んできた設計事務所、カガミ建築計画の各務謙司(カガミケンジ)です。 学生時に初めて設計したプロジェクトがリフォーム、ニューヨークでの建築修行時も高級マンションリフォームに特化した設計事務所勤務、帰国してからもリフォームの仕事が圧倒的に多く、リノベーションに特化したカガミ・デザインリフォームのブランドを立ち上げ、上質リフォームの普及に尽力してきました。

リノベ設計に効くハーフェレ金物_270度ヒンジを使った大田区S邸キッチン

[大田区S邸]

大田区のヴィンテージマンションリフォームS邸のキッチンの組み立てが始まりました。
今回は、トール収納の扉を270度まで開く特殊なヒンジと、極小サイズのエアヒンジといった、ちょっとマニアックな金物の工夫をご紹介します。

まずは背面コンロ側のキャビネットの組み立てからスタートします。左右にトールキャビネットがあり中央のカウンターセンターにガスコンロが入るキャビネットです。今回はこの向かって左側のキャビネットの使い方と特殊なヒンジについて後半で解説したいので、以下、キッチン組み立ての様子は簡単な紹介に留めておきます。

左上の大型ビルトイン型冷蔵庫が入るサイドキャビネットは、右から順に、引き出し式パントリー、その左が冷蔵庫置き場、動かせないPS部分をキャビネットと同材で囲んだ柱型、という構成です。
さらにその左側には、コーヒーメーカー等を置くカウンターと吊り戸が続きます。右上は中央に来るペニンシュラ型(半島型)カウンターです。こちらにシンクが入ってきます。3つの大きなキャビネットのレベルを出しながら慎重にセットしていきます。次は大判セラミックなどの化粧材を取り付けていきます。

こちらはペニンシュラに載せる天然石の甲板です。先回のブログ(他のプロジェクトのブログ記事ですが…)で細かく説明したクォーツサイトの「タージマハール」です。二段カウンター構成で、立ち上がり部分にコンセント穴が開いています。

ペニンシュラにカウンター材が乗った様子です。二段カウンターの上段(右側部分)と側面は天然石ですが、シンクが入っているメインのカウンター(左側部分)はタージマハールとそっくりな柄の大判セラミックです。

さて、今回のブログの本題です。ガスコンロの左側のトールユニットをご覧ください。こちらに一工夫がされているのです。箱の左側にちょっと大きめの丁番が幾つか取り付いているのが見えるでしょうか?実はこのトール収納の扉は270度開いて欲しいと考えていました。

270度まで扉が開く丁番を使う理由は、こちらの図解を見て頂くと分かりやすいと思います。お客さまが来たときには電子レンジや炊飯器を収納するトール収納内部を扉で隠すことができるが、普段は扉を開けて使いたいので、扉が邪魔にならないようにトールキャビネットの側面にピタリと寄せることができるという仕組みを実現することを目指しているのです。

12年前にお手伝いしたプロジェクトで、270度回転するヒンジが必要になり、色々と調べてハーフェレ社のこちらのヒンジを使ったことがありました。今回オーダーキッチンをお願いしたリネアタラーラの牧野さんに調べて貰ったのですが、残念ながら廃盤となっていました。

他社で探しても見つからないとのことでしたので、こういった複雑な動きをする丁番の専門会社であるハーフェレ社であれば、後継機種があるのではと考え、ハーフェレ社に直接問い合わせをしてみました。そうしたらなんと、日本では販売していないが、ドイツ本国では上記のヒンジが販売されていることが判り、このキッチンの為だけに輸入してもらうこととなりました!

特殊な動きをするヒンジなので、まずは分解写真で見てください。ただ、これだけだと良く分からないので、(初めて)動画をブログにアップしてみます!

手で押さえている部分が箱で、青いパネルが扉だとすると、扉を270度回転させることできる特殊な家具ヒンジです!このモックアップはオーダーキッチンをお願いしているリネアタラーラが扉の取っ手のことや、扉背面に取り付ける反り止めとの関係も含めて検討したうえで作ってくれたものです。

ちょっと先走ってしまいますが、完成時の様子がこちらです。担当スタッフの竹田さんにモデルさん役をやってもらいました。扉が完全に開くので、トール収納内部の炊飯器用引き出し式の出し入れもスムーズです。そして普段開ききった状では、玄関へと抜ける通路の行き来も問題なく、照明スイッチもうまく使えるように仕上がりました!

もう一つ、同じハーフェレ社の極小ヒンジもご紹介します。エアヒンジという名称のやはり優れものなのですが、こちらは既に日本に入ってきて約9年経つので建築・インテリア関係の方はご存じだと思います。

キャビネットにこのような穴をあけて、ヒンジを差し込んでビス止めするだけで取り付けができて、サイズが極小なので、ほとんど目立たないというものです。こちらについては、ハーフェレ社のデモ動画がありますので、そのリンクを張っておきます。

そしてこちらがひと通り組みあがって、養生されたキッチンの全容です。
以下、ちょうど良いタイミングでニュース記事が公開されました。

先月、新宿デザインセンターオゾンにて話題の(笑!)ハーフェレショールームを訪問取材した際の記事「リノベ設計に役立つ!ヨーロッパで磨かれたハーフェレの家具/建築金物の活用法を建築家・各務謙司氏が解説」がちょうどアップされました。

以前より金物で困った時に相談に乗って貰っていた、ハーフェレの佐野さんと大木さんに色々と細かく詳しくお話をした様子が分かる記事ですので、どうぞご覧ください!

カガミ建築計画の新事務所移転計画-5_造作家具と大判セラミック

[カガミ建築計画事務所移転計画]

南青山の新事務所の工事レポートの第5弾では、造作家具の立ち上げ工程と、大判セラミックの施工の様子を中心に紹介します。
現場には造作家具の主要パーツが搬入され、いよいよ組み立てがスタート。 造作家具の調整作業は、個人的にも大好きな工程なので、ここからはほぼ毎日現場に寄らせてもらいました。
打ち合わせ室のこのベニヤ板張りの壁に本棚と建具が設置されます。
L字型に曲がっている変形の枠が、
袖壁に取り付けられました。
以前のブログでも紹介した、このスケッチに左側の変形枠です。
この枠の上下を見ると、ディテールの考え方が判るはずなのですが、ちょっと判り難いですね…。ただ、この枠の上下をどう納めるかで、家具と建具の一体感が決まってくるのです。細部(ディテール)に空間の神様が宿るのです。
あまり広くない打ち合わせ室内で、造作家具をお願いしてる現代製作所のメンバーが揃って、材料を井桁に組んでから…、
皆で立ち上げて、台輪の上に設置して、隙間を調整します。
本棚と廊下から打ち合わせ室に入る建具枠と一体化された家具の完成です。
こちらは玄関のベンチの設置状況です。木下地に効くように桟木を打ってから、そこに甲板を載せると…、
2段式のベンチカウンターが組みあがりました。上の段は腰かけたり荷物を置くカウンターで、下段はスリッパ収納として使う予定です。
トイレの手洗いカウンターは既に下台が組みあがっており、そこに大理石甲板が載せられていました。
左側のこの個所にトール収納を設置します。
この箱が、そのトール収納なのですが、この中に ・打ち合わせ室に使うルートロン社のホームワークスの制御盤が内蔵される ・そのために、電気配線が集中し、 ・盤から発生する熱を逃がすための工夫が必要となる ……という3つの理由で、箱に穴あけ加工をしています。
上部やサイドに穴あけ加工がされています。
壁から出ている電線を穴に通しながら、そのトール収納を設置します。
実はこの箱の中に、打ち合わせ室の照明やブラインドをコントロールするルートロン社のホームワークスの盤が入ってくるので、電気配線が集中してくることと、盤からの発熱を天井裏に逃がすための穴をあけているのです。
こちらがルートロンの盤が入った最終形のトール収納内部です。棚の手前には多少熱くなって問題が無さそうなタオルやトイレットペーパーを収納する予定です。
このトイレ内のキャビネットの奥には、途中変更で造作家具屋を困らせてしまったトイレットブラシ置き場もできています。白く見える箇所はステンレス板の養生です。
もう一つの造作家具、打ち合わせ室のカウンターは既に組みあがっていて、キダマーブルの皆川さんたちが、大理石の甲板を載せているところでした。
大理石のカウンターを載せたら、壁の大判セラミック張りです。アークテック社が扱っているイタリア産のセラミックのフィアンドレのスタトゥリーオ柄です。
タイルの継ぎ目部分に刺さっている、黒とオレンジのモノは、タイルレベラー(あるいはタイルスペーサー)と呼ばれる道具で、①大判タイル・大判石材同士の段差(ラッピング)をなくす、②目地の隙間を一定に保つ、③接着剤が固まるまでタイル同士が動かないように固定するという機能を担ってくれる優れモノなのです。
同じように、フィアンドレの違う大理石柄のこちらの大判セラミックタイルを…、
トイレの壁に貼ってもらいました。 まだまだ面白い工程が続くので、もう少しお付き合いください。

キッチン・洗面・浴室リノベの設計プロセス_20以上の案を徹底検討!

[世田谷区A邸]

メゾネットリノベーションの世田谷区A邸では、キッチンと洗面と浴室の水回りを刷新したいとのご希望を当初から伺っています。それらのレイアウト案をどのように考えて、お客さまと打ち合わせを重ねる中で、最終的にどのような形に纏まっていったのかのプロセスをご紹介します。

こちらが、お客さまから頂いた現在のキッチンと洗面と浴室のレイアウト図です。15年前に水回りをリフォームした際に工事会社との打合せに使っていた図面とのことです。当初は濃い灰色で塗られた壁が全てコンクリート造かと思いましたが、マンション竣工時の図面と現地の調査で、コンクリート壁は限られた範囲であることが判りました。青がこの時点で分っているコンクリート躯体で、緑がPS(パイプスペース)です。

お客さまのAさまからのご要望は、具体的なことはほとんど伺っていない段階で、こちら設計側で勝手に考えてみた水回りレイアウト案です。キッチンは大きなL字型のカウンターで、背面にガスコンロとオーブンを、さらにその裏側に通り抜け型のパントリーを設けてみました。

カガミ建築計画では、最初の間取りや水回りレイアウト案は、所長の各務が手書きのスケッチで考えます。しばらくはこの図のように手書きスケッチをPDF化したものに色付きで考えを重ねた図で、お客さまとの打合せを続けます。

その間に、担当スタッフ(今回は副所長の竹田さんです)がパソコンで、寸法や機器のサイズも入れたCAD図面を作ってくれます。そのCAD図に、また各務がコメントを書き加えて案をブラッシュアップさせていきます。

幾つかのキッチンショールーム巡り(今回は、クチーナジーマティックポリフォームアルクリネアモルテーニリネアタラーラをご一緒しました)をしながら、お客さまのご意見を伺いつつ、レイアウトの考え方を発展させていきます。写真はリネアタラーラの用賀ショールームです。

これらのパターンはキッチンは全てL字型で共通していますが、緑色の浴室の位置によって洗面カウンターやキッチン背部のパントリーのレイアウトが変わっています(お客さまにお見せした図面は白黒でしたが、ブログでは分かりやすいように色分けしてみました)。薄紫色に塗った個所がPS(パイプスペース)でこれがあることで水回りレイアウト案にかなりの制限が掛かってしまうのです…。

インテリアを勉強したことがある奥さまのAさまも色々と考えて下さり、こんなことができないかというアイデアを送ってくださいます。

ここまでは、Aさまのご要望を一旦こちらで受けて、次回の打ち合わせまでにレイアウト案を図面化してお見せするスタイルで進めてきましたが、水回りのレイアウトパターンがあまりに増えて、中々収束しない可能性が見えてきたので、Aさまに事務所に来て頂いて、竹田さんがその場で図面化してみることになりました。寸法的な問題や使い勝手なども一緒に相談しながら、案を絞り込んで設計を進めることにしました。

熱心にスクリーンを見ながら、リクエストをしてくださるAさまと、それをスピーディーに図面化してくれる竹田さんの様子です。

ここまでの作業で大きくパターンが4つに収れんしてきそうだったので、各案を比較検討しやすいように色分けしたパターン図を作ってみたのがこちらです。

実は、当初の予定では、奥さまも設計側の一員として参加してもらいながら、スケジュールに余裕を持たせて、ご満足がいけるプランに辿り着くまではじっくり進めようとのお話でした。ところが、海外留学していたお子さまが、トランプ政権の煽りで日本に戻られることになり、スケジュールを早めて欲しいとのご依頼がありました。
最終決定をしてしまう前に、追加であと2案考えて欲しいとのお話で作ったのがこちらの2案です。やはりパントリーを通り抜けて、キッチンとランドリーコーナーがある洗面が繋がるのは魅力的ですね。

ここまで作った全ての案を机の上に並べてみた様子です。
今回はキッチンだけでなく、浴室のサイズ、洗面とランドリーにもこだわりのあるAさまでしたので、とにかく各方面からのバランスと陣取り合戦と収納計画の絡みでレイアウト決定に時間が掛かりました。

途中では、オーダーキッチンでほぼ内定(笑)がでた、リネアタラーラの牧野さん、そして整理収納アドバイザーとしていつもお世話になっているタイディーアップの片岡さんにもご自宅に来てもらい、キッチンの収納計画のアドバイスも貰っています。
竹田さんは天井に空けた穴から天井裏を覗き込んでいますが、ビルトイン冷蔵庫をガゲナウにした場合、天井高さの問題があるので、どこまで天井高さを確保できるかを確認してくれているのです。

各案の良い点と悪い点を整理しつつ、関係各社にもアドバイスをもらった上で、最終的にほぼこれが良いだろうと纏まった案がこちらです。
あれっ…?

一番最初に考えた「初期案」と「最終案」のレイアウトがほぼ同じに戻る形となったのです!
キッチンのガスコンロとビルトイン機器の位置が変わったこと、途中で行った部分解体調査でPSが移動できたりした部分が少し違いますが、ほとんど同じレイアウトに戻ったので、皆笑ってしまいました!

マイナーな修正案も含めると24~5案ほど作ったのですが、最後はほぼ振り出しに戻ったのです。でも、「ここまで色々なパターンを作ってみたうえで、この案になったので、本当の納得感があります!」とAさまが仰ってくださったことが、とても嬉しいのです。

打ち合わせの途中段階でショールーム周りをした、ビルトイン冷蔵庫と冷凍庫のガゲナウ、自動センサー水栓のデルタ(DELTA)、ガス機器のリンナイ、浴槽のジャクソン、洗面ボウルのセラや水栓のグローエなど設備機器、クォーツサイトのタージマハール(コセンティーノ)等の素材を含めて、Aさまが気に入ったものを全て取り込んで、正式に依頼することが決まったリネアタラーラと一緒に詳細を決めてゆくことになります。