Author Archives: Kenji Kagami

設計業界では亜流であったリフォーム・リノベーションに、十数年前から真剣に取り組んできた設計事務所、カガミ建築計画の各務謙司(カガミケンジ)です。 学生時に初めて設計したプロジェクトがリフォーム、ニューヨークでの建築修行時も高級マンションリフォームに特化した設計事務所勤務、帰国してからもリフォームの仕事が圧倒的に多く、リノベーションに特化したカガミ・デザインリフォームのブランドを立ち上げ、上質リフォームの普及に尽力してきました。

カガミ建築計画の新事務所移転計画-5_造作家具と大判セラミック

[カガミ建築計画事務所移転計画]

南青山の新事務所の工事レポートの第5弾では、造作家具の立ち上げ工程と、大判セラミックの施工の様子を中心に紹介します。
現場には造作家具の主要パーツが搬入され、いよいよ組み立てがスタート。 造作家具の調整作業は、個人的にも大好きな工程なので、ここからはほぼ毎日現場に寄らせてもらいました。
打ち合わせ室のこのベニヤ板張りの壁に本棚と建具が設置されます。
L字型に曲がっている変形の枠が、
袖壁に取り付けられました。
以前のブログでも紹介した、このスケッチに左側の変形枠です。
この枠の上下を見ると、ディテールの考え方が判るはずなのですが、ちょっと判り難いですね…。ただ、この枠の上下をどう納めるかで、家具と建具の一体感が決まってくるのです。細部(ディテール)に空間の神様が宿るのです。
あまり広くない打ち合わせ室内で、造作家具をお願いしてる現代製作所のメンバーが揃って、材料を井桁に組んでから…、
皆で立ち上げて、台輪の上に設置して、隙間を調整します。
本棚と廊下から打ち合わせ室に入る建具枠と一体化された家具の完成です。
こちらは玄関のベンチの設置状況です。木下地に効くように桟木を打ってから、そこに甲板を載せると…、
2段式のベンチカウンターが組みあがりました。上の段は腰かけたり荷物を置くカウンターで、下段はスリッパ収納として使う予定です。
トイレの手洗いカウンターは既に下台が組みあがっており、そこに大理石甲板が載せられていました。
左側のこの個所にトール収納を設置します。
この箱が、そのトール収納なのですが、この中に ・打ち合わせ室に使うルートロン社のホームワークスの制御盤が内蔵される ・そのために、電気配線が集中し、 ・盤から発生する熱を逃がすための工夫が必要となる ……という3つの理由で、箱に穴あけ加工をしています。
上部やサイドに穴あけ加工がされています。
壁から出ている電線を穴に通しながら、そのトール収納を設置します。
実はこの箱の中に、打ち合わせ室の照明やブラインドをコントロールするルートロン社のホームワークスの盤が入ってくるので、電気配線が集中してくることと、盤からの発熱を天井裏に逃がすための穴をあけているのです。
こちらがルートロンの盤が入った最終形のトール収納内部です。棚の手前には多少熱くなって問題が無さそうなタオルやトイレットペーパーを収納する予定です。
このトイレ内のキャビネットの奥には、途中変更で造作家具屋を困らせてしまったトイレットブラシ置き場もできています。白く見える箇所はステンレス板の養生です。
もう一つの造作家具、打ち合わせ室のカウンターは既に組みあがっていて、キダマーブルの皆川さんたちが、大理石の甲板を載せているところでした。
大理石のカウンターを載せたら、壁の大判セラミック張りです。アークテック社が扱っているイタリア産のセラミックのフィアンドレのスタトゥリーオ柄です。
タイルの継ぎ目部分に刺さっている、黒とオレンジのモノは、タイルレベラー(あるいはタイルスペーサー)と呼ばれる道具で、①大判タイル・大判石材同士の段差(ラッピング)をなくす、②目地の隙間を一定に保つ、③接着剤が固まるまでタイル同士が動かないように固定するという機能を担ってくれる優れモノなのです。
同じように、フィアンドレの違う大理石柄のこちらの大判セラミックタイルを…、
トイレの壁に貼ってもらいました。 まだまだ面白い工程が続くので、もう少しお付き合いください。

キッチン・洗面・浴室リノベの設計プロセス_20以上の案を徹底検討!

[世田谷区A邸]

メゾネットリノベーションの世田谷区A邸では、キッチンと洗面と浴室の水回りを刷新したいとのご希望を当初から伺っています。それらのレイアウト案をどのように考えて、お客さまと打ち合わせを重ねる中で、最終的にどのような形に纏まっていったのかのプロセスをご紹介します。

こちらが、お客さまから頂いた現在のキッチンと洗面と浴室のレイアウト図です。15年前に水回りをリフォームした際に工事会社との打合せに使っていた図面とのことです。当初は濃い灰色で塗られた壁が全てコンクリート造かと思いましたが、マンション竣工時の図面と現地の調査で、コンクリート壁は限られた範囲であることが判りました。青がこの時点で分っているコンクリート躯体で、緑がPS(パイプスペース)です。

お客さまのAさまからのご要望は、具体的なことはほとんど伺っていない段階で、こちら設計側で勝手に考えてみた水回りレイアウト案です。キッチンは大きなL字型のカウンターで、背面にガスコンロとオーブンを、さらにその裏側に通り抜け型のパントリーを設けてみました。

カガミ建築計画では、最初の間取りや水回りレイアウト案は、所長の各務が手書きのスケッチで考えます。しばらくはこの図のように手書きスケッチをPDF化したものに色付きで考えを重ねた図で、お客さまとの打合せを続けます。

その間に、担当スタッフ(今回は副所長の竹田さんです)がパソコンで、寸法や機器のサイズも入れたCAD図面を作ってくれます。そのCAD図に、また各務がコメントを書き加えて案をブラッシュアップさせていきます。

幾つかのキッチンショールーム巡り(今回は、クチーナジーマティックポリフォームアルクリネアモルテーニリネアタラーラをご一緒しました)をしながら、お客さまのご意見を伺いつつ、レイアウトの考え方を発展させていきます。写真はリネアタラーラの用賀ショールームです。

これらのパターンはキッチンは全てL字型で共通していますが、緑色の浴室の位置によって洗面カウンターやキッチン背部のパントリーのレイアウトが変わっています(お客さまにお見せした図面は白黒でしたが、ブログでは分かりやすいように色分けしてみました)。薄紫色に塗った個所がPS(パイプスペース)でこれがあることで水回りレイアウト案にかなりの制限が掛かってしまうのです…。

インテリアを勉強したことがある奥さまのAさまも色々と考えて下さり、こんなことができないかというアイデアを送ってくださいます。

ここまでは、Aさまのご要望を一旦こちらで受けて、次回の打ち合わせまでにレイアウト案を図面化してお見せするスタイルで進めてきましたが、水回りのレイアウトパターンがあまりに増えて、中々収束しない可能性が見えてきたので、Aさまに事務所に来て頂いて、竹田さんがその場で図面化してみることになりました。寸法的な問題や使い勝手なども一緒に相談しながら、案を絞り込んで設計を進めることにしました。

熱心にスクリーンを見ながら、リクエストをしてくださるAさまと、それをスピーディーに図面化してくれる竹田さんの様子です。

ここまでの作業で大きくパターンが4つに収れんしてきそうだったので、各案を比較検討しやすいように色分けしたパターン図を作ってみたのがこちらです。

実は、当初の予定では、奥さまも設計側の一員として参加してもらいながら、スケジュールに余裕を持たせて、ご満足がいけるプランに辿り着くまではじっくり進めようとのお話でした。ところが、海外留学していたお子さまが、トランプ政権の煽りで日本に戻られることになり、スケジュールを早めて欲しいとのご依頼がありました。
最終決定をしてしまう前に、追加であと2案考えて欲しいとのお話で作ったのがこちらの2案です。やはりパントリーを通り抜けて、キッチンとランドリーコーナーがある洗面が繋がるのは魅力的ですね。

ここまで作った全ての案を机の上に並べてみた様子です。
今回はキッチンだけでなく、浴室のサイズ、洗面とランドリーにもこだわりのあるAさまでしたので、とにかく各方面からのバランスと陣取り合戦と収納計画の絡みでレイアウト決定に時間が掛かりました。

途中では、オーダーキッチンでほぼ内定(笑)がでた、リネアタラーラの牧野さん、そして整理収納アドバイザーとしていつもお世話になっているタイディーアップの片岡さんにもご自宅に来てもらい、キッチンの収納計画のアドバイスも貰っています。
竹田さんは天井に空けた穴から天井裏を覗き込んでいますが、ビルトイン冷蔵庫をガゲナウにした場合、天井高さの問題があるので、どこまで天井高さを確保できるかを確認してくれているのです。

各案の良い点と悪い点を整理しつつ、関係各社にもアドバイスをもらった上で、最終的にほぼこれが良いだろうと纏まった案がこちらです。
あれっ…?

一番最初に考えた「初期案」と「最終案」のレイアウトがほぼ同じに戻る形となったのです!
キッチンのガスコンロとビルトイン機器の位置が変わったこと、途中で行った部分解体調査でPSが移動できたりした部分が少し違いますが、ほとんど同じレイアウトに戻ったので、皆笑ってしまいました!

マイナーな修正案も含めると24~5案ほど作ったのですが、最後はほぼ振り出しに戻ったのです。でも、「ここまで色々なパターンを作ってみたうえで、この案になったので、本当の納得感があります!」とAさまが仰ってくださったことが、とても嬉しいのです。

打ち合わせの途中段階でショールーム周りをした、ビルトイン冷蔵庫と冷凍庫のガゲナウ、自動センサー水栓のデルタ(DELTA)、ガス機器のリンナイ、浴槽のジャクソン、洗面ボウルのセラや水栓のグローエなど設備機器、クォーツサイトのタージマハール(コセンティーノ)等の素材を含めて、Aさまが気に入ったものを全て取り込んで、正式に依頼することが決まったリネアタラーラと一緒に詳細を決めてゆくことになります。

モルテーニキッチンを選んだ理由と設計プロセス_ショールーム見学から図面・CG検討まで

[城南R邸]

2住戸同時リノベーションの城南R邸では、ゲストルーム用のB住戸にキッチンがモルテーニ(Molteni)製の高級キッチンを採用することが決まりました。このモルテーニキッチン導入に当たっては、お客さまとの合計4回のショールーム訪問、モルテーニ担当者の3回の現場訪問、さらには幾度ものCG作成と打ち合わせを重ねてきました。今回のブログでは、モルテーニキッチンが選ばれた理由とその決定までのプロセスを設計者目線で詳しくご紹介いたします。

初めてお客さまの奥さまと息子さんとモルテーニのショールームを訪れたのは2024年4月。当時は旧ショールームでまだモルテーニとダーダ(DADA)の名前が併用されていた時期でした。その質感とディテールの美しさに、特に奥さまと息子さんが深い印象を持たれたようでした。実はご夫妻はそれ以前にもご自身でモルテーニを見学されており、その魅力を既に感じ取っておられたそうです。

高級キッチン7社を巡ったツアーの中でも、モルテーニキッチンの素材感や洗練されたデザインが強く印象に残り、導入候補として早くから注目されていました。ハイブランドキッチン7社のツアーを行った際の記録はキッチンツアー-1キッチンツアー-2キッチンツアー-3をご覧ください。

初回のこの時は、ハイブランドキッチンのショールーム初体験のご子息が、全てのことに感動してくれての大盛り上がり大会(笑)でした。イートインカウンターの上の図面を見ると、既にキッチンの仮レイアウトが出来上がっていることが判りますね。

ショールームに展示されていたキッチンモデルは、サイズ的にもB住戸とほぼ同等であり、実際の空間におけるイメージをつかみやすい点も大きな魅力でした。こちらの写真は、初回の約2か月後にご夫妻と一緒に改めて旧ショールームを再訪させて頂いた際のものです。

厚みのあるトラバーチン石のカウンターと、天然木突板に金属を組み合わせた構成、さらに一体型のダイニングコーナーなど、モルテーニキッチン特有の高級感が、B住戸の設計コンセプトと見事に調和していました。

担当スタッフの前田君が当初の間取り図と展開図に基づき、機器配置や収納計画を仮設計しています。

冷蔵庫・冷凍庫のビルトイン設置や収納レイアウトを3Dでシミュレーションし、違和感がないかを細かく確認していきました。そのうえで、作ったのが…、

こちらの初期CGです。CGとしての質を上げるためには素材感やディテール、照明などのリアルさが重要となるので、モルテーニ側にも協力をお願いして、モデルキッチンの写真・寸法情報を共有いただきました。そのおかげで、初回から非常にリアルなビジュアルを実現することができました。
これをご覧になって、Rさまご夫妻のモルテーニへの想いも強くなったのだと思っております。

モルテーニの弊社担当の渡辺さんにお願いして、モデルキッチンの詳細を撮影し、特徴の格子扉の寸法なども確認させて貰った様子です。ご協力ありがとうございます。

ちょうどこのタイミングで南青山のモルテーニの旧ショールームが閉鎖となり、しばらくの期間を置いて新しいショールームがオープンするまでの期間は、別の箇所の打ち合わせを進めました。

そうこうしているうちに、新ショールームの「パラッツォ・モルテーニ東京」が完成し、地階にRさまが気に入っていたスタイルの色とサイズ違いもモデルが展示されていました。

この日はキッチンは再確認で、ウォークインクローゼットの打ち合わせがメインだったので、それほどキッチン見学には時間を掛けませんでしたが、このスタイルのキッチンで進めたいというRさまご夫妻のお気持ちはより強くなったようです。

その間に、現地調査や使い勝手の調整などの打ち合わせを進める中で、プランもかなり変わってきました。3つのキッチンプランを「初期(2024年4月頃)」、「中間期(2025年2月頃)」、「最終期(2025年10月頃)」と並べて比べてみました。
「初期」は、壁面収納はU字型に大きくある割には、大型のコンロとシンクがアイランドカウンターに並んでおり、調理スペースがほとんど取れていないバランスの悪いキッチンでした。
「中間期」は窓側に小さめのカウンターにシンクを設けて、アイランドカウンターの端部にミニシンクを設けています。窓側のシンクの周りにはマンションのPSが複雑な形をして並んでおり、シンク周りにカウンタースペースを設けることができず、苦心しておりました。
「最終期」では、現地での部分解体調査で設備ダクトや配管を動かすことができることが判り、大きなカウンターを窓前のシンク側に作ることできることが判り、堂々とした使いやすいキッチンを実現しました。

各段階でのCG比較からも、パッとの見た目はほとんど変わっていないようですが、アイランドカウンターのコンロの位置と、奥の小さなガラス窓周りのカウンターの広さを見比べると、実用性・快適性に大きく寄与する工夫が見えるハズです。因みに当初はレンジフードを金物造作で囲って、棚を作っていましたが、ホコリが溜まりそうなのでやめたい、とのRさまのご意見で、シンプルにレンジフードだけとしています。

一旦、モルテーニからの概算見積りが出て、金額的な面でお客さまのOKを頂けたので、ここから発注に向けて細部の打ち合わせを進めていくことになりました。

これまでキッチン以外のLDKの内装材で候補に挙がってきている素材とイメージ写真を見比べながら…、

同時にキッチンの仕上げ材を見比べて、両者を調整してゆきます。

と同時に、各設備の寸法等を確認していきます。こちらはモルテーニショールーム内にあるシンク(SRは大理石のシンクで、R邸ではステンレスシンクです)の幅と深さ、そして水栓の仕様の確認を…、

ビルトイン冷蔵庫と冷凍庫で採用予定のものと同じリープフェルの冷凍冷蔵庫とワインセラーの組み合わせの確認を…、

カトラリー(スプーン、フォーク、お箸等)収納の引き出し内の区分けや、お鍋やお皿を収納する引き出し内部の仕上げの確認を…、

さらには壁付けコンセントと、

カウンター上に設けるポップアップ式コンセントの確認までをさせて頂きました。パラッツォ・モルテーニの中には4層分各階にキッチン展示があるので、エレベーターを上がったり下りたりしながら、各種の仕様をサンプルで見ながら決めてゆくことができました。

モルテーニとカガミ建築計画で何度もやり取りをしてきた図面に、最後の打ち合わせで決定となったことをメモ書きしたものがこちらです。モルテーニ側でもメモを取っているので、両者を見合わせて最終図面に訂正してもらったところで、最終見積りを工事会社のリフォームキュー経由で出してもらい、正式発注へと進むことになります。

モルテーニキッチンの素晴らしさを城南R邸のB住戸内に何とか実現させるために、ここまで複数回のショールーム訪問と図面&CGシミュレーション、更には現場解体調査等を重ねて進めてきました。実に最終形に辿り着くまでに1年半の時間が掛かっています(2住戸同時設計であることも長期化している理由ではありますが)。全ての条件が揃ったことで、R邸B住戸におけるベストなキッチンとしてモルテーニキッチンの採用が決定したのです!