Author Archives: Kenji Kagami

設計業界では亜流であったリフォーム・リノベーションに、十数年前から真剣に取り組んできた設計事務所、カガミ建築計画の各務謙司(カガミケンジ)です。 学生時に初めて設計したプロジェクトがリフォーム、ニューヨークでの建築修行時も高級マンションリフォームに特化した設計事務所勤務、帰国してからもリフォームの仕事が圧倒的に多く、リノベーションに特化したカガミ・デザインリフォームのブランドを立ち上げ、上質リフォームの普及に尽力してきました。

造作家具の現代製作所工場見学

[文京区S邸]

先回に引き続き、また家具工場の見学です。今回は、一番良くお世話になっている現代製作所の神奈川県横浜市都筑区川和町の工場です。

現代製作所とのお付き合いはかなり深く、まだ設計者として独立したばかりの頃、ご縁があって自分の出身幼稚園である白金幼稚園の建替えを発注者側(つまり幼稚園側)としてお手伝いさせて頂きました。その時に工事をお願いすることになった工務店佐藤秀の現場所長が上林さんで、その後彼が佐藤秀を辞めてお父さまが作られた造作家具屋の現代製作所を作ったという経緯があります。幼稚園が完成したのが2000年、工事はその1年半前から始まっていたので、上林さんとのお付き合いは25年を超えていますね。その後、難しいプロジェクトの造作家具や建具だけでなく、元請けとしても何度も助けて貰ったことがあり、若い頃は造作家具図も満足に書けなかったので、こちらの工場に幾度も相談に来たことがありました…。

昔ながらの懐かしい工場だなと思って足を踏み入れたところ、奥には見慣れない大型機器が鎮座していました。NCルーターです!

コンピューターで3次元の図面を描くと、それに沿った形で刃物をコントロールして木材等の材料を削り出すという優れものの機械です。

こちら四角い部品がバキュームになっていて材料をしっかりと固定し…、

こちらの歯やドリルを使いながら削ってゆくという最新鋭の機器です。

こんな素晴らしい機械があれば、僕らがお願いしている文京区S邸の家具も、ハイスピードでどんどん組み立てられているだろうと思っていましたが、案に相違してNCルーターは全く使わず、昔ながらの手作業で組んでいるとのことでした…。

今回のSさまのご要望は、なるべく無垢感があって、かつ造作家具なのに置き家具に見えるようなデザインのものが欲しいとのことでした。この写真のキャビネットも普通の箱家具に見えますが…、

箱同士の接合部を見ると、機能的にはほとんど意味がない板材が挟まれています。その表面の単板も厚みが2ミリほどある大手(オオデ)が張られています。通常であれば、小口テープと呼ばれる表面に厚み0.45ミリの薄く削った木を貼った粘着テープを貼るのですが、厚みがその4倍ほどある大手を使ってもらっています。

また箱を組む材料も、通常であればフラッシュ合板と呼ばれる、木製の芯材を梯子状に組み表面に薄い板を接着剤で張り付けた板材(中空合板)という軽い材料を使うのですが、お客さまからのリクエストで無垢感を出すためにベタ芯(中空部分が無い)仕様として、しっかり重たい材料を使って箱を組んでもらっているのです。

足元も、普通の造作家具であれば、台輪と呼ばれる巾木のような板を、キャビネットの箱から少し凹んだ位置に取り付けるのですが、今回は脚で立っているようなデザインとしています。

それぞれの箱の中に入る引き出しですが、これも通常は清掃性と頑丈さを考えてメラミンで作ることが多いのですが、お客さまの好みを考えて、シナ合板で作ってもらっています。

こちらはマッドルーム(いわゆる土間)に設置するL字型のベンチの基材です。

工場長が仮組してくれたようにL字型に繋がるカウンタ材のようになります。

ベンチ板を支える脚も、ベタ芯でしっかりと重量がある脚となっています。足元にコンセントを設けたかったので、このように板の中にCD管を挿入しておいて、足元に家具用のコンセントをつける仕様となっています。

クローゼットの扉も出来上がりつつあります。框(カマチ)仕様の扉となっていますが、本框と鏡板で作るとかなり高額になってしまうので、MDF合板に薄板を框のように張り付ける仕様としています。

最後に、工場長と設計担当の吉岡さん、弊社担当の竹田さんと僕での記念写真を撮らせてもらいました。懐かしい手作業道具と手練れの職人さん、最新のNCルーターが同居した現代製作所の工場で作られるS邸の家具の現場での組立、楽しみにしています!

モロッコ産のゼリージュタイルの貼り方

[文京区S邸]

今年の3月のブログ記事に書いたモロッコ産のゼリージュタイルが、無事現場に届きました(といっても、当初納期の1か月遅れで、3種類お願いした内の1種類はまだ届いていませんが…)。ゼリージュ(ゼリージェ?)タイルとは、モロッコで手作りされる伝統的な装飾釉薬タイルで、ハンドメイドなので、一枚一枚が微妙に違い、広い面に張った時の美しさは格別ですが、規格品のタイルとは違い、張り方もかなりユニークなのです。

モロッコ産のゼリジェタイル

3月にサンプル(有償)を取り寄せた際には、3割近くのタイルが破損していたので、今回のオーダーでは、そのリスクの予備等を考えて50%増しの面積でお願いしていましたが…、

モロッコ産のゼリジェタイル

プラスティックのプチプチ梱包などは箱の中に全く入っていませんでしたが、丁寧に配送されたのか、隙間なく詰められてたからか、欠けも破損もほとんどない状態で届きました。

モロッコ産のゼリジェタイル

100ミリ角のものは縦に詰められていましたが、50ミリ角のタイルはこちらのように平積みとなっていました。

モロッコ産のゼリジェタイル

平積みになっていたのはこのように背面からネット張りになっていたからでした。

モロッコ産のゼリジェタイル

表に返すとこのようなものです。こちらも欠けや破損はほとんどありませんでした。

モロッコ産のゼリジェタイル

キダ・マーブルの職人さんに見て貰ったところ、ネット張りはパッと見はスピーディーに張れそうに見えるが、四周のラインがあまりにガタガタで揃っていないので、一枚ずつに分解して張らないとうまく貼れないだろうとのことでした。

モロッコ産のゼリジェタイル

早速職人さんが張り始めている様子を見学させて貰いました。予備のタイルもあったので、接着剤を何を使って、どのように貼るかの実験を幾度かしたうえで、いわゆる改良圧着張り工法で張るのが良さそうだとのことになったようです。

モロッコ産のゼリジェタイル

改良圧着張りとは張り付けモルタルまたは接着剤を下地面に塗り、それが硬化しないうちに、タイル裏面にも同じものを塗り付けて張り付ける工法です。

モロッコ産のゼリジェタイル

下地とタイル材の両面に張付けモルタルまたは接着剤を塗り付けるため、ばらつきが少なく、きわめて
安全性の高い工法とされています。

モロッコ産のゼリジェタイル

実験の結果、一番しっかりと圧着できるのが、こちらのアイカエコエコボンドだったそうです。

モロッコ産のゼリジェタイル

小さなタイルの裏面にもしっかりボンドを付着させてから、押し付けるようにして貼っていくのと、隙間なく貼ってゆくのがかなり難しく、かなり大変だとのことでした。

モロッコ産のゼリジェタイル

それでも一通り張り終わったとの報告を現場からもらったので、後日見に行ったのがこちらの様子です。まだ、目地が詰められていませんが、最初にお客さまとお話していたイメージとかなり近く、良い感じですと職人さんに伝えたところ、「本当にこれでよいのか自信がなかったけど、そういってもらえて良かった良かった!」と喜んでくれました。

モロッコ産のゼリジェタイル

僕ら設計の確認を受けてからと待っていてくれた目地詰めを始めた様子です。

モロッコ産のゼリジェタイル

目地が入っていないエリアと、(まだ余分な目地材が拭き取られていませんが)目地が詰まった個所を見比べると、目地が入ることで透明感のようなものが出てくるのが不思議です。

モロッコ産のゼリジェタイル

目地材を詰めて、きれいに拭き取った後はこのようになりました。一番大変だったシャンプー置きのニッチ部分もとてもきれいに仕上がっています。

こちらは今年3月に作ってもらったゼリジェタイルの出隅(出っ張ったコーナー)トメ加工(45度にタイルをカットしてシャープなコーナーに仕上げて貰う方法)のモックアップ模型です。コーナーの部分はタイル表面を傷つけないように裏地を斜め45度にカットするトメ加工の難しさが判りますね…。

モロッコ産のゼリジェタイル

ニッチの底板だけは白い大理石のビアンコカラーラを最初から、ユニットを作ってくれた東京バススタイルにお願いして仕込んでおいてもらいましたが、コーナーのトメ加工が本当にきれいにできていて、感動しました!
因みに、日本のタイルメーカーにもモロッコからの輸入品のゼリージュタイルが幾つか見つかります。弊社では面倒な(笑)輸入品よりも保証が効く、国内代理店があるタイルの方が安心感があるので、各社からサンプルと取り寄せて、お客さまに見て貰いましたが、今回のように目地なしで張るタイプが無いこと、どれもエッジのシャープさがないことから、不採用となりました。ただ、今回のようなタイルの貼り方は、日本の一般的な工務店ではお願いしても色々なリスクがあるので、難しいと思います。今回はお客さまに先回のブログで書いた覚書にサインをして貰ったうえでの施工となります。

造作家具の取り付け工事@新宿区T邸

[新宿区T邸]

先回のブログでTVキャビネットの取り付けを紹介した新宿T邸ですが、他の造作家具の取り付けについてご紹介します。

施工会社・の下請けとして入ってくれている造作家具屋の大沼木工所さんとは、初めてご一緒したのは約12年前の杉並区S邸のリフォーム工事現場でした。それから幾度もご一緒していますが、工場を見学したことが無かったので、今回のT邸の造作家具の製作途中も見せて貰いがてら工場を訪問してまいりました。

2段重ねになっていますが、箱と扉をメラミンでお願いしている来客用トイレの手洗いカウンター下の箱ががほぼ出来上がっていました。

こちらも同じ家具の他の部分ですね。奥の壁に立てかけてある四角い穴の開いたパネルはゴミを捨てるための穴です。少しタイミングが悪く、他の塗装仕上げの家具は別の塗装会社に送ってしまった後とのことで、残念ながらT邸の他の家具は見ることができませんでした…。

それでも、大沼さん兄弟のお父さんが昭和初期に始めた木工所とのことで、沢山の小口テープが並んでいる棚に驚かされたり、

迷路のように入り組んだ工場の奥には、昔大沼家が住みながら家具を作っていた築50年を軽く超える古い倉庫があったりと、見どころが色々とありました。

新宿T邸の造作家具は、実は3回に分けて現場に入れられています。石膏ボードとの取り合いがシビアでカウンター周りシールを最小限に収めたい、例えばこの来客用トイレの手洗いカウンターは、ボードが張られる直前に入れて貰いました。

こちらは大沼木工所に作ってもらった家具の製作図です。大沼さんの会社は、実はここまでの図面はあまり作らず、大沼さんの鉛筆手書きのスケッチ図面で打ち合わせを進めるのが普通のやり方なのですが、僕らは製図の費用が掛かっても良いので、より細かいディテールまで詰めたいので、作図をお願いしているのです。

新宿T邸‗造作家具組立

ボードやタイル下地のベニヤ板が完全に張られてから入ってきた造作家具の第2弾の洗面カウンターです。

新宿T邸‗造作家具組立

リネン庫と下着等を入れる引き出し収納が入ったトール収納とダブルシンクのカウンターが繋がった大きいキャビネットですが、カウンター材がトール収納にまで差し込まれているようなデザインとするために、この写真のような面倒な組み立て方となっています。

新宿T邸‗造作家具組立

箱を一旦組んだ後、クオーツストーンにダブルシンクの穴があけられているカウンター材をセットします。

新宿T邸‗造作家具組立

来客用トイレの手洗いのように石膏ボードを貼る前にカウンターがセットできると、隙間をほぼゼロで納めることができるのですが、反対にこれだけの大きな家具を先に入れてしまうと、傷がつかないように養生をしながらの石膏ボード張り作業となってしまうことや、先行の家具が多くなると、工場のスケジュール調整が大変になるので、バランスを見て、こちらの家具は石膏ボード張りの後でのセッティングとなりました。

新宿T邸‗造作家具組立

カウンターがきれいに乗った洗面家具です。

新宿T邸‗造作家具組立

反対側から見返すと、カウンターのクオーツストーンが、手前のトール収納の中まで入り込んできているのが良くわかりますね。

新宿T邸‗造作家具組立

引き出しや収納扉がを取り付けると、ほぼ完成となります。

ほぼ最後に入ってくるダイニング横のワインセラー入りキャビネットは、塗装工事が終わった後に取り付けられます。この写真のキャスター付きゴミ箱と掃除機が入れられているニッチに、その家具が入ってきます。

こちらがその家具です。天井高がかなり高い空間なので、上部の空間も収納として使えるように工夫しています。ビニールが掛けられてい黒い塊はワインセラーキャビネットです。
セインセラーが収まっているニッチ空間とその左側のカウンター家具の間の仕切り板を見てください。

通常のキャビネットで作ると、厚みが20ミリほどの塗装仕上げの板が入ってくるのですが、そうなるとかなり野暮ったくなるので、ここは厚み3ミリのステンレスヘアライン仕上げの方立(ホダテ)で納めて貰っています。

斜めから見ると方立の厚みというか、薄さが判りますね。

こちらは玄関横、来客用トイレ横の靴収納(この状態ではスリッパ収納として使われていますね)ですが、こちらも塗装工事が終わった後に造作収納と取り付けます。

靴収納は2つの扉に分かれており、一つは姿見を兼ねた鏡扉に、もう一つは鏡面の輝きは同じですが、顔が映り込まないカラーガラスの扉となっています。これらはの扉は現場で扉の基材に鏡とカラーガラスを接着するのですが、数日間は平らな場所で置いておかないといけないのです。

そして、最後に扉を取り付けると、このようにすっきりと納まるのです。