Author Archives: Kenji Kagami
2025.10.23
既存浴室解体で現れた「1つの驚き」と「2つの想定外」
[松濤D邸]
浴室とキッチンを中心とした3回目のリフォームとなる松濤D邸では、なるべく長くご家族がご自宅で暮らしながら、リフォーム工事期間を最小限にするべく、工程の調整をDさまご夫妻と工事会社のリフォームキューと相談してまいりました。
- ご自宅には浴室が一つしかありませんが、主寝室の奥にシャワーがあるため、浴室がなくても生活は可能です。
- キッチンが使えないと生活は大変ですが、「夜帰って寝るだけ」と考えれば何とかなる。
- ただし、キッチン奥にある洗濯機が使えないと住み続けることは難しい、というのがDさまのご要望でした。
以上を踏まえ、①浴室は先行して解体する(新しいオーダーユニットバスの製作開始に必要なため)、②キッチンはできるだけギリギリまで残しつつ、周囲を事前に解体して不明点をつぶしておく、③トイレが2つあるため、洗濯機を来客用トイレの便器を外した場所に仮設移設して使用を継続する、という方針を立てて工事を進めることとなりました。
そして解体したところ、「1つの驚き」と「2つの想定外」がありました。

1つの驚きがこのきれいなタイル張りの壁です!
既存のユニットバスを解体した裏から、以前の緑色のカラフルなモザイクタイルで作られた在来工法の浴室壁が現れたのです。

ほぼ同じアングルで撮影した、以前のユニットバスと解体後の様子のビフォーアフター(というより、ビフォーとアンダーデモリッション?)の比較写真です。ほぼ無彩色のグレーの浴室の裏から、こんなにも色鮮やかなタイル壁が現れるとは驚きでした。

この状態で東京バススタイルの眞柄さんに来てもらってレーザーを使って測量して貰ったのですが、先回の事前調査で測った寸法と合わないと首をかしげているのです…。

事前調査時には、天井点検口から測量した寸法で「90%程度の確率で間違いがないハズ」だとお客さまにはお伝えしていましたが、どうやらまさかの残りの10%側が起こってしまったようです。それが1つ目の想定外です。
眞柄さんと弊社の前田君が、事前調査時の寸法と今回の実測値を照らし合わせる中で、誤差が生じた原因を突き止めることができました。

このスケッチ図で、赤い線が元の浴室のサイズ、その内側に黒い線が既存のユニットバスです。元のユニットバスの天井点検口から眞柄さんが頭を出して測量をしてくれたのですが、赤い矢印の寸法を測ったことで、「新しい浴室はもっと大きくすることができる」と判断してしまったのです。しかし実際には、スケッチ図に注意書きしているように、その部分はニッチのように膨らんだ個所で、天井裏のダクト類が視界を遮っていたために気づけなかったのです。

Dさまには「新しい浴室は既存より大きくできそう」とお伝えして喜んでいただいていたので、僕らも焦りました。

そこでリフォームキューの森井さんも交えて検討した結果、浴室サイズを拡張できる2つの方法を見つけることができました。
一つは浴室扉の位置を洗面側に寄せること、もう一つはカラフルなモザイクタイルを斫る(はつる)ことです。洗面カウンターと浴室の間には通路があるため、追加の費用はかかりますが、洗面室への影響を最小限に抑えながら浴室を拡大できます。また、タイルを斫る場合はさらに費用がかかりますが、そこまで行えば先回ご説明した大型浴室が実現可能となるのです。

その結果を前田君が分かりやすい資料に纏めてくれました。③と④の案は、お客さまと一緒に選んでいた浴槽をサイズダウンする案となってしまうので、最初から×印。案①と案②の違いは浴槽に入った時の頭側と足側の部分にタイルで平場(ヒラバ)を作るかどうかです。

平場があるのが上段、ないのが下段。今回は浴槽の頭側にヘッドレストを付けるため、平場がある方がゆったりできます。ただし、そのためには壁のモザイクタイルを斫る必要があるのです。急ぎで両案の費用を算出し、Dさまご夫妻には費用感をもとに最終決定をお願いしました。
3日後に見積が届きました。
①既存モザイクタイルを撤去し、浴室サイズを1770×2080mm(最大)とする場合:諸経費・税込で約80万円増、工期5日延長。
②既存モザイクタイルを残し、浴室サイズを1730×2080mm(頭側に平場少しあり)とする場合:約30万円増、工期延長なし。

次の想定外は床レベルでした。浴室奥に、浴室とは関係ない排水管が通っていたのです。実はこれは浴室裏のトイレ排水管で、以前のリノベ会社がトイレ汚水を浴室内を経由して流すルートにしていたことが判明しました。
浴室を最大サイズにすると、この排水管上に防水パンを設ける必要があり、洗面室から浴室への床が47mm上がることになります。以前はサイズを小さくしてこの配管を避けていたのです。

断面詳細スケッチを見ると、左が洗面室、右が浴室。以前は25mmの沓摺(くつずり)高さが、今回は72mmになり、その差が47mmとなります。
前田君の資料を使った丁寧な説明で、Dさまご一家も理解くださり、最終的には①案の最大サイズ浴室を選択。床高上昇と追加費用、工期延長をご了承いただきました。

キッチンについては、キッチン内の梁型部分の中に、空調のドレイン管が入っているハズで、そのレベルと位置を確認することでした。キッチンをしっかり養生したうえで…、

点検口を開けてみましたが、その点検口からは内部が見えなかったので、追加で点検口を横に空けてみたところ、

RC梁下にあるドレイン管の位置と高さ(レベル)を確認することができした。
その結果、ドレイン管の勾配を延ばして別の位置に排水を落とせることがわかり、キッチンのサイズを少し大きくすることが可能になりました。
いつもお客さまには、現場も既存図面を見ない状態で作るリノベーション案は実現可能性70~75%、現場チェックと既存図面を踏まえた段階で80~85%、部分解体まで行ってようやく90~95%、それでも完全解体するまでは100%は無いとお伝えしています。
今回は、お客さまが費用の追加と工期の延長を快く承諾してくださったことで、無事に乗り越えることができました。
そしてやはり、どんな現場でも解体までは少しドキドキが続くのです。
2025.10.22
高級キッチンの天板候補クォーツサイト(天然石)とコセンティーノ・ジャパン
[世田谷区A邸]
天然石ながら、非常に硬く傷が付きにくく、水染みも少なく、耐熱性にも優れていながら、御影石のような暗さが無く、華やかな色調の石材として、クォーツサイト(Quartzite)が注目されています。似たような名前のクオーツストーンは、石英と樹脂を固めた人口石で、全くの別物です。

クォーツサイトは珪岩(けいがん)とも呼ばれる、石英を主成分とした天然の変成岩の一種です。
表情や色目、柄は美しいが水や酸に弱く、染みができやすい大理石、硬くて水にも酸にも強いが華やかさが乏しい御影石のちょうど、良いとこどりをしたような天然の石材なのです。

これまでは、岐阜や三重に集まっている大規模な石材会社(関ケ原石材や、矢橋大理石、松下産業)といった大手では、時々見かけることがありましたが、クォーツサイト(クオーッァイト)だけを集めた展示や販売はされていませんでした。
スペインの大判セラミックとクォーツストーンのメーカーであり、天然石も扱うコセンティーノ社が、日本でもクォーツサイトを販売したことで、認知度が一気に広がり出したのです。
因みにクオーツサイトは砂岩が地下深くで高温&高圧の条件に晒されることで、石英の粒子が再結晶して、より頑丈な組成に変性されるというプロセスで作られるそうです。

コセンティーノ・ジャパンは、これまでも大判セラミックのデクトンや、クオーツストーンのサイルストーンの両者を扱っていましたが、3年ほど前に南青山に「コセンティーノ・シティ東京」という名の美しいショールームを開き、そこに「センサ」というシリーズ名で、ただでさえ強いクォーツサイトに工場で染み防止処理を浸透させた石材のシリーズとして売り出したのです。

「センサ」の撥水処理剤の強さを示すために、コセンティーノの弊社担当営業の小高さんが、砂に撥水処理剤を吹きかけて…、

そこに水と紅茶を用いた実験をしてくれました。黒い石材の上の砂で、右の二つの山の液体はすぐに砂に染みてしまっていますが、左の2つの山には水と紅茶の液体が玉のように纏まったまま、染みていないのが分かりますね。

コセンティーノ・ジャパンは大判セラミックとクオーツストーン、そしてこのクオーツサイトをはじめするコーティング済みの天然石全てを等価に扱っている、この業界では本当に珍しいブランドなのです。大手石材ブランドも生き残りのために、セラミックやクオーツストンを扱ってはいますが、本心では天然大理石が一番良いと考えながら、水染みのことなどを心配する人向けには、(ニセモノですが)こんなものもありますよと営業しているのが実情ですし、セラミックやクオーツストーンを扱っている会社は、天然石よりもセラミック等の方が安定してムラがなく、良い物として扱っており、石材は扱っていないところばかりです。

そんな中でコセンティーノは三者全てを等価に扱って、その用途や適性に応じて臨機応変にお勧めしてくれる稀有なブランドなのです。

セラミックもクオーツストーンも天然石も大きなサンプルで見ないと、その雰囲気を正確に理解することが難しいのですが、このようにショールーム内に大判サンプルが置いてあるのもコセンティーノのショールームに行く価値があると感じています。

コセンティーノのショールーム内には、実際に使えるキッチン展示があり、ちょうど世田谷区A邸でも使いたいと検討してきたワインセラーや、

カウンター下に入るビルトイン冷蔵庫の展示もあったので、それらもAさまと一緒に確認させて頂きました。

先日のリンナイ青山訪問でもご一緒した世田谷区A邸のAさまは、改めてクオーツサイトの魅力を強く感じて、ご自身のキッチンのカウンターのどこかには是非このタージマハールを使いたいとのご意向を聞かせてくださいました。
クォーツサイトは含んでいませんが、大判セラミックとクオーツストーンを比較してメリットとデメリットを書いたブログ記事もご覧ください。
2025.10.19
カガミ建築計画の新事務所移転計画-3_スマート照明とタイル
[カガミ建築計画事務所移転計画]
南青山に事務所を移転する計画、現地のリフォーム工事はゆっくりながら着実に進んでいます。

二つの小部屋が並んでいた玄関横の個室は、間仕切り壁が撤去され打ち合わせ室となります。

打ち合わせ室には照明の調光と調色、ブラインドもアプリで自由に操作することができるルートロン社のホームワークスのシステムを入れることになっております。ルートロンは使ったことがあっても、ダリという制御システムを使った照明器具やホームワークスは、電気屋の稲村さんも始めてとのことで、ルートロン社の谷崎社長が現場に来て説明をしてくれました。

照明器具は面倒な配線は不要で、全てを一筆書きのように繋げて、トイレの収納ボックス内に設けるルートロンの盤に繋げればよいとのことでした。

照明スイッチはボックスなしの独特な接続となることも事前に聞いていたので、デモ機を持ってきてもらい、接続方法を稲村さんに確認して貰いました。

ホームワークスで制御できるブラインドは、やはりルートロン社のものとなるので、サンプルから一番良さそうなものを選ばせて頂きました。

こちらの部屋には以前は壁掛けエアコンが2台ついていましたが、LDの横にあった小部屋の天井カセットエアコンをこちらに移設しました。お客さまもいらしての打ち合わせを想定して、カガミ建築計画/ザ・ライブラリーの標準的な仕様を使ったインテリアにしたいので、エアコンの冷媒管やドレイン管が露出することは避けたいと考えていましたが、窓際にカガミ建築計画お得意の木製三方フレームを取り付ける際に、2つの窓の間の壁部分をフカすことで冷媒管とドレイン管を隠すことができそうです。

天井の石膏ボードを張り直した打ち合わせ室です。実はこの時点で床のフローリングも既に張り終わっています。

フローリングは、カガミ建築計画で最近一番多く使っているADワールドのノルド・シリーズのモハベを使っています。ちょうどADワールドに在庫があった分で打ち合わせ室と廊下が足りることがあったので、営業担当の阿部さんにお願いして確保してもらったものです。こちら見ているのが現場監督の栗原さんで左側が超優秀な大工の小野寺さんです。

こちらは廊下にあった分電盤です。当初はこの壁の裏がトイレになるので、その収納の中に隠す計画で進めていましたが、パナソニックが新製品で露出で設置してもスタイリッシュな分電盤のFLEXIID(フレキシード)というものを発売し、そのモニターを募集しているとの話を出版社のエクスナレッジ・西山さんから聞きました。急いで申し込んでみたところ、ちょうどタイミングが良かったのかモニターとして提供してもらえることになりました。

電気屋の稲村さんと田口さんと各務で相談して、回路数を数えて、フレキシードのBDN5225(主幹容量50A、100V16回路、100/200v兼用6回路)をお願いすることになりました。

こちらが現場に届いたフレキシードの分電盤です。

分電盤用に作ったニッチの中にはめ込んでもらった様子です。分電盤の厚みが、深さ100ミリと業界最薄で、真っ白で不愛想な(失礼!)フタが白い塗装壁の中においても違和感がないデザインとなっています。因みに、モニターとしての採用の条件は、工事完成後に取材と撮影をとのことでした。

バタバタした中ですが、まだ未決事項だった床に使うタイルを探しに銀座のマラッツィショールームを訪問してきました。
今回新事務所で採用する素材類を選ぶ基準は以下のように考えています。
- これまでにカガミ建築計画で使ってきて、デザイン性とコスパが良いもの
- ショールーム的にも使う予定なので、今後も永くお客さまにご推薦したい良質のもの
- 急に事務所移転とリフォーム工事が決まったので、在庫があるか短納期なもの
- これまで使ったことがないが、今後使っていきたいと思える魅力があるもの
そんな中で、玄関タタキとトイレとキッチンの床は、愛用させて貰っている石目調のタイルのグリスフルーリーを使うことに決めました。在庫を確認して、使う面積を見ながら以下のような張り方を考えつつ、発注致しました。

キッチン床とトイレ床は在庫サイズが限られていたので、ちょっとデザイン的に工夫した張り方としています。

キッチンのコンロとシンク前の壁は実用性を考えて無難なキッチンパネルとしていますが、カップボードの背面壁はインテリア的にアクセントにしたかったので、最近よくご提案している手焼き風タイルの「ルーメ」と「ルック」からアヴィオ(ルック)という薄いブルーのタイル(写真手前から3枚目と4枚目)を貼ることとしました。

キッチンカップボード裏のバックパネル壁のタイルも、寸法的に中途半端なサイズが入ってしまいそうでしたので、このイメージ画像のように縦と横を混ぜたデザインとしています。

タイルという素材に関しては、もう一つ大理石調大判タイルも使うことを検討しています。アークテック社が扱っているフィアンドレのセラミックタイルです。まずは国内在庫を確認したところ、カラカッタ・スタトゥアーリオのマット(艶無し)仕上げとカラカッタの磨き(艶あり)とマット、そしてブライト・オニキスの磨きがあることが分かりました。
打合せ室のキャビネットを設置する壁には、最もよく使っているスタトゥアーリオ柄のセラミックを張ることとして、セラミックの割りと張り方を検討しました。

そしてこちらが、トイレの壁に張るブライト・オニキスの割りです。アークテック社は責任施工でセラミックを張ってもらうこともできますが、今回は上記のマラッツィや本物の大理石を貼る部分もあるキダ・マーブルさんに施工をお願いすることになりました。

タイル絡みでもう一つ、玄関ホールの壁にインテリアズ社が扱っている加工大理石サルバトーリのトラッティです。サルバトーリもこれまで幾度もお客さまにご提案して、実際に採用してもらってきたものなので、どこに使うか色々と迷いましたが、お客さまが玄関入って最初に見える壁に張ることとしました。

そのサルバトーリを壁面に張る予定の玄関ホールがこちらの空間です。

大工の小野寺さんが持ってくれているのがL字型に加工したステンレスヘアラインの丸棒で、コート掛け用のハンガーパイプとして天井付近に取り付ける予定のものです。ただ、僕ら設計側が寸法を間違えてしまったようで、

当初の寸法で取り付けて貰ったところ、すぐ下に来るベンチに座った時に頭にぶつかってしまうので、小野寺さんにお願いして、高い位置につけ直してもらいました。

この高さであれば、頭も当たりませんね。右手奥が玄関扉で、後日サルバトーリを張るベニヤ壁の上にはLEDの間接照明用のボックスも作って貰っています。

トラッティは加工大理石と金属目地だけで構成された壁用の素材です。大理石のサイズが3種類あって、張ったときに縦目地がずれていた方が美しいので、届いた材料を一度床に仮並べして、どのように張ると一番美しいかを、TAGKENの佐藤さんと栗原さん、弊社の竹田さんが調整してくれました。

デザイン的にはあまり凝ったことを考えていない事務室スペースは、収納量重視で考えています。窓際に設けるオープン棚と窓に取り付けるブランドのサイズを竹田さんと前田君が実測してくれています。