Author Archives: Kenji Kagami

設計業界では亜流であったリフォーム・リノベーションに、十数年前から真剣に取り組んできた設計事務所、カガミ建築計画の各務謙司(カガミケンジ)です。 学生時に初めて設計したプロジェクトがリフォーム、ニューヨークでの建築修行時も高級マンションリフォームに特化した設計事務所勤務、帰国してからもリフォームの仕事が圧倒的に多く、リノベーションに特化したカガミ・デザインリフォームのブランドを立ち上げ、上質リフォームの普及に尽力してきました。

福建土楼の旅-2 方形楼に残る生活の記憶

[見学記]

前回ご紹介した「土楼の王」承啓楼(ショウケイロウ)のすぐ近くにも、見学可能で土楼が幾つかありました。今回はその中でも、より素朴で実際の生活が感じられる方形土楼・世澤楼(シセツロウ)を中心に、周辺の集落まで歩いてみた記録です。承啓楼が宗族の繁栄を象徴する建築だとすれば、世澤楼は、より素朴で生活に密着した土楼といえます。
こちらが歩いてすぐのところにある、世澤楼です。円環土楼ではなく、四方(方形)タイプの土楼です。 簡単に土楼の歴史を整理すると、初期の土楼は小規模(一族十数人程度)で、防御機能を重視した四角い「囲い型住居」でした。そこから社会情勢の変化や大家族・氏族が豊かで人が増えるにつれ、巨大な共同住宅型の土楼が建設されるようになりました。客家邸宅型建築といわれる五鳳楼(五つの鳳(棟)を持つ楼)は低層分棟型の大きな邸宅スタイルででした。そこから社会情勢が不安化するにつれ、氏族の集合住宅化と要塞化(壁が厚くなり、外壁の開口部が減ってゆく)が進み、高層階の四角形または長方形の方形楼へと変化していきます。そこからさらに氏族の繁栄と連帯感の表現や要塞化とが進み、死角がない円楼化が進みます(地形などの外的要因によっては半月形や五角形のものもあります)。 つまり、方形楼は円楼の前段階の形と言えます。
世澤楼も現在も人が住んでいる現役の土楼ですが、承啓楼ほど観光化されていない、素朴な土楼です。案内のツアーガイドが一緒であれば、上階に上がってゆくこともできます。
円環土楼のような複層になった構造はありませんが、四角い土楼の中に小さな小屋で作られた町があるような構成となっています。正面奥に先祖を祀る祠堂があり、小屋は今はお土産屋さんになっていますが、かつては厨房やゲストが泊まる部屋だったそうです。
1565年に建てられた土楼で建築面積は約 5,100 平方メートルとのこと、迷路のような複雑さはありませんが、構築的な作りとなっており、1階より2階がせり出しており、更に3階がせり出した構成となっています。
階段の様子です。四隅に階段があり、壁は日干し煉瓦、床と階段は木製となっています。火事に際しての避難口のサインは日本と同じですね。
上階に上がると、完全な木造となってきます。コーナーは隅切りされています。ところどころに部屋が飛び出しており、回廊のように循環することはできない構成になっています。 腰高の収納(内側が格子になっていて風通しがある)があって、その上に手すりが載っています。このような素朴な納まりの中に、共同生活の工夫が見えます。
手すりから見下ろすと瓦屋根が見えますが、ビスや金物等で固定されておらず、ただ重ねておかれているだけでした。もし大きな地震が起これば、瓦は一瞬で落ちてしまいそうなほど、素朴なつくりでした。
最上階まで登ると、回廊で四周を一周できる作りになっていました。
天井を見上げると、貫と束と垂木で支える典型的な木軸構造となっています。ただ、外壁側が土楼と言われる所以でもある厚みのある版築の土壁で作られています。
部屋の内部も覗けました。外壁側の窓の部分を見ると、いかに壁が厚いのかが良く分かります。
円楼も色々とあるようで、こちらの円楼は複層構造も小屋もなく、ただのオープンスペースとなっており、樹木が植えられており、ちょっとしたアゴラのような構成となっています。正面に見える祠堂の柱も柱頭のような飾り付きで、ちょっとバタ臭いデザインとなっています。土楼は比較的最近まで(1950年代頃まで)作られており、外国(特に東南アジア)でビジネスで成功した華僑が、故郷に錦を飾ってモダンな土楼を作るケースもあるそうです。 因みに1960年代に鉄筋コンクリート造の集合住宅が作られるようになって、一気に土楼の建築が止まってしまったそうです。堅牢性や施工のしやすさ、火事や地震にタイルする安全性を考えても、そうなることは自明の理ですね。
こちらでも、上階に行くに従って内側にせり出す構造になっているのが良く分かります。
街中には色々な所に大小の土楼がありました。こちらはランチを食べたレストランの横にあった土楼ですが、観光からは全く遠い所にあるような土楼で、
中もこのような素朴なもので、数人の人が住んでいるような状況のようです。土楼が世界遺産になったのは2008年のことで、それまでに打ち捨てられた土楼も多数あったようで、つい最近大都市の厦門(アモイ)から高速道路が通りましたが、それまでは日帰りで土楼を見て回るのが難しいほどのへき地だったそうです。
元々の土楼は、盗賊に狙われにくい山中にあり、周りの畑で自給自足生活をしていたのが、世界遺産で観光客が急増して生活も大きく変わったそうです。土楼を観光化してうまくお金儲けをした人は近くに新築のお宅を作ったり、却ってそのことで打ち捨てられりと大きく環境が変わっているそうです。 この段々畑の右奥に見えているのは、田螺坑土楼群です。
望遠カメラで見ると、このように円と四角の楼が折り重なっているようになっています。この写真の右上にある展望台まで登って見下ろすと…、
このように見えるのです。円楼の中を細かく覗き込むと、服が干してあったりで、人が暮らしているのが分かりますね。こちらも時間がなく、内部を見ることができませんでした。五鳳楼やより古い土楼なども見学したかったのですが、残念ながら時間切れでした。 長い年月のあいだ住人たちを守り、共同生活を通じて氏族の絆を支えてきた土楼も、今では観光と新しい生活のはざまで新しい形へと姿を変えつつあります。それでも、厚い土壁や木の階段に残る生活の跡には、初期の集合住宅ならではの沢山の工夫と知恵を見ることができました。と同時に、今の高密度ながら住人同士の繋がりが乏しい日本のマンションの住まい方に、少し疑問も感じました。何百年も前の土楼の内部には、家族や共同体の関係性を建築で支えようとした意志が強く見えました。

寒さ対策とデザインにこだわった大田区S邸のオーダーユニットバス組立

[大田区S邸]

ヴィンテージマンションリフォームの大田区S邸のオーダーユニットバスの組み立てが始まりました。

オーダーユニットバスの組み立て

今回のプロジェクトでは、元浴室があった場所と全く同じ場所にユニットバスを組む計画となっています。元の浴室は広くて(広すぎる?)壁がカーブした変形の空間で、在来工法浴室だったため冬は特に寒く、木製の扉は下部が腐ってしまっていました。
この写真の奥に見えているタイル張りの壁が元の浴室の壁でした。

オーダーユニットバスの組み立て

弊社がオーダーユニットバスをお願いする際は、もっともよくお願いしているのが東京バススタイルさん、その次が今回お願いしているヴェルデさんとなります。ヴェルデの社長の立花さん(写真左奥の眼鏡を掛けている方です)は、元高級浴槽ブランドのジャクソンのスタッフだった関係で、ジャクソンの浴槽を入れるときにかなり安い金額で見積りを出してくれるのです。といっても選んだ理由はそれだけではなく、当初はジャクソンとつながりがあるGIGIのクローゼットを採用する予定だった(最終的には使わないことになってしまいましたが)こともあってお願いした経緯があります。

オーダーユニットバスの組み立て

オーダーユニットバスの組み方については、以前のこちらの記事でもかなり詳しく説明させて頂きましたが、防水パンと呼ばれる水を下にこぼさない水受けトレイ(FRP樹脂で都度サイズオーダーで作る)と浴槽、壁材と天井、そして入り口のサッシから構成されます。
防水パンは小さい浴室であれば1枚で作ることがありますが、今回のような大型サイズとなると、マンションへの搬入のことや設置の簡易さから、2枚に分けて作ることがほとんどです。最初の写真でも洗い場部分の防水パンがすでに設置されていますね。

オーダーユニットバスの組み立て

防水パンの脚の部分をアップで見た写真です。特にこちらのパンは浴槽が置かれる部分なので、パンの下に構造的なリブが入っており、そのリブにがっちり金属製の脚が固定されています。床下の不陸に合わせて、脚の高さを調節できるような作りになっています。右奥の丸い部分は排水トラップ(排水口で、下水の臭いが室内に戻らない構造になっている部分)となります。
ベニヤ板で塞がれた2か所に穴が開いていますが、そこから脚の高さを調整したり、排水管を接続したりできる点検口的なものとなっています。

オーダーユニットバスの組み立て

こちらは他の部屋に置かれていたジャクソン社の浴槽です。カガミ建築計画ではヴェンティネオ・ヴェンティをよく使わせて頂いていますが、今回はヴェンティです。どちらの半身浴が可能で、背の高さに差があるご夫妻の場合にご推薦させて頂いております。

オーダーユニットバスの組み立て

こちらは壁パネルやサッシ枠の部品です。

オーダーユニットバスの組み立て

翌日のオーダーユニットバスの様子です。既に防水パンが二枚組み込まれて、壁パネルとサッシ枠と窓枠、そして天井パネルまで組み立てられていますね。トラバーチン柄の壁タイルから線が一本たれていますが、これは追い焚き等をコントロールする給湯リモコン用の配線です。

オーダーユニットバスの組み立て

防水パン2枚の嚙み合い部分です。まだシールが打たれていませんが、2枚のパンが握手をするようにしっかりと組み合わせられて、隙間から水が漏らないように作られているのです。

オーダーユニットバスの組み立て

こちらは2枚の防水パンの噛み合わせ部分を外側から見たところです。

オーダーユニットバスの組み立て

窓サッシの枠の様子です。白いビニールで養生されていますが、ステンレス鏡面仕上げの枠となっています。今回は、窓サッシ枠の外側(と言って洗面側なので内部です)に壁位置を合わせて同じトラバーチン柄のタイルを貼るデザインとしています。

オーダーユニットバスの組み立て

こちらは天井パネルです。青い養生シートが張られていますが、3枚のパネルの構成です。奥の四角い穴は浴室暖房乾燥機を設置する開口で、その左右の丸穴は浴室用のダウンライト照明を設置する穴、手前の四角は天井裏で浴室暖房乾燥機を接続するための点検口です。

オーダーユニットバスの組み立て

シャワー水栓やカランが付く側の壁です。壁中央部分が白くなっているのは、壁タイルとフラットに鏡を張る箇所です。下に水とお湯の立ち上がりが来ています。ここにライニング(立ち上がり壁)を作ってシャワー水栓等を後で設置することになります。

オーダーユニットバスの組み立て

既存の2つの窓は活かすことになっているので、オーダーユニットバスにも2か所の開口が空いています。ユニットと言われるだけあって、基本は部品のほとんどを工場で作って、現場作業は組み立てだけとなるのですが、既存の窓サッシとピッタリ合わせないといけない部分については、現場での加工となるので、まだサイド壁が作られていません。
奥に見えている既存浴室の壁位置から見ると、新しいオーダーユニットバスの壁位置が10センチほど内側に入っており、狭くなっています。しかし、ほとんど断熱材が施工されていない外壁と、元の浴室の内側のタイル壁が冬の寒さを貫通させていたのに対して、新しいオーダーユニットバスの外側に空気層を作ることで、寒さを遮断することができるのです。

オーダーユニットバスの組み立て

ほぼ組みあがった状態のオーダーユニットバスです。まだ、奥に見えている二つの窓側の壁タイルが張られていないこと、水栓類や照明、浴室暖房乾燥機等の設備が設置されていないこと、浴室の手前側の壁や枠が仕上がっていませんが。

オーダーユニットバスの組み立て

手前側の壁や枠の施工は、実はヴェルデさんのお仕事ではなく、工事全体を請け負っているリフォームキュー側の工事となるので、弊社担当の竹田さんとリフォームキューの現場監督の大阿久さんが枠の仕様について打ち合わせをしている様子です。

オーダーユニットバスの組み立て

そしてまた1週間後に現場に来た際には、内側の木製枠がこのように仕上がっていました。最後に浴室の枠と同じステンレス鏡面仕上げの枠でカバーする形になります。

既存浴室解体で現れた「1つの驚き」と「2つの想定外」

[松濤D邸]

浴室とキッチンを中心とした3回目のリフォームとなる松濤D邸では、なるべく長くご家族がご自宅で暮らしながら、リフォーム工事期間を最小限にするべく、工程の調整をDさまご夫妻と工事会社のリフォームキューと相談してまいりました。

以上を踏まえ、①浴室は先行して解体する(新しいオーダーユニットバスの製作開始に必要なため)、②キッチンはできるだけギリギリまで残しつつ、周囲を事前に解体して不明点をつぶしておく、③トイレが2つあるため、洗濯機を来客用トイレの便器を外した場所に仮設移設して使用を継続する、という方針を立てて工事を進めることとなりました。

そして解体したところ、「1つの驚き」と「2つの想定外」がありました。

浴室解体後に分かったサイズの測量間違いについて

1つの驚きがこのきれいなタイル張りの壁です!
既存のユニットバスを解体した裏から、以前の緑色のカラフルなモザイクタイルで作られた在来工法の浴室壁が現れたのです。

浴室解体後に分かったサイズの測量間違いについて

ほぼ同じアングルで撮影した、以前のユニットバスと解体後の様子のビフォーアフター(というより、ビフォーとアンダーデモリッション?)の比較写真です。ほぼ無彩色のグレーの浴室の裏から、こんなにも色鮮やかなタイル壁が現れるとは驚きでした。

浴室解体後に分かったサイズの測量間違いについて

この状態で東京バススタイルの眞柄さんに来てもらってレーザーを使って測量して貰ったのですが、先回の事前調査で測った寸法と合わないと首をかしげているのです…。

浴室解体後に分かったサイズの測量間違いについて

事前調査時には、天井点検口から測量した寸法で「90%程度の確率で間違いがないハズ」だとお客さまにはお伝えしていましたが、どうやらまさかの残りの10%側が起こってしまったようです。それが1つ目の想定外です。
眞柄さんと弊社の前田君が、事前調査時の寸法と今回の実測値を照らし合わせる中で、誤差が生じた原因を突き止めることができました。

浴室解体後に分かったサイズの測量間違いについて

このスケッチ図で、赤い線が元の浴室のサイズ、その内側に黒い線が既存のユニットバスです。元のユニットバスの天井点検口から眞柄さんが頭を出して測量をしてくれたのですが、赤い矢印の寸法を測ったことで、「新しい浴室はもっと大きくすることができる」と判断してしまったのです。しかし実際には、スケッチ図に注意書きしているように、その部分はニッチのように膨らんだ個所で、天井裏のダクト類が視界を遮っていたために気づけなかったのです。

浴室解体後に分かったサイズの測量間違いについて

Dさまには「新しい浴室は既存より大きくできそう」とお伝えして喜んでいただいていたので、僕らも焦りました。

そこでリフォームキューの森井さんも交えて検討した結果、浴室サイズを拡張できる2つの方法を見つけることができました。
一つは浴室扉の位置を洗面側に寄せること、もう一つはカラフルなモザイクタイルを斫る(はつる)ことです。洗面カウンターと浴室の間には通路があるため、追加の費用はかかりますが、洗面室への影響を最小限に抑えながら浴室を拡大できます。また、タイルを斫る場合はさらに費用がかかりますが、そこまで行えば先回ご説明した大型浴室が実現可能となるのです。

その結果を前田君が分かりやすい資料に纏めてくれました。③と④の案は、お客さまと一緒に選んでいた浴槽をサイズダウンする案となってしまうので、最初から×印。案①と案②の違いは浴槽に入った時の頭側と足側の部分にタイルで平場(ヒラバ)を作るかどうかです。

平場があるのが上段、ないのが下段。今回は浴槽の頭側にヘッドレストを付けるため、平場がある方がゆったりできます。ただし、そのためには壁のモザイクタイルを斫る必要があるのです。急ぎで両案の費用を算出し、Dさまご夫妻には費用感をもとに最終決定をお願いしました。

3日後に見積が届きました。
①既存モザイクタイルを撤去し、浴室サイズを1770×2080mm(最大)とする場合:諸経費・税込で約80万円増、工期5日延長。
②既存モザイクタイルを残し、浴室サイズを1730×2080mm(頭側に平場少しあり)とする場合:約30万円増、工期延長なし。

浴室解体後に分かったサイズの測量間違いについて

次の想定外は床レベルでした。浴室奥に、浴室とは関係ない排水管が通っていたのです。実はこれは浴室裏のトイレ排水管で、以前のリノベ会社がトイレ汚水を浴室内を経由して流すルートにしていたことが判明しました。
浴室を最大サイズにすると、この排水管上に防水パンを設ける必要があり、洗面室から浴室への床が47mm上がることになります。以前はサイズを小さくしてこの配管を避けていたのです。

断面詳細スケッチを見ると、左が洗面室、右が浴室。以前は25mmの沓摺(くつずり)高さが、今回は72mmになり、その差が47mmとなります。

前田君の資料を使った丁寧な説明で、Dさまご一家も理解くださり、最終的には①案の最大サイズ浴室を選択。床高上昇と追加費用、工期延長をご了承いただきました。

浴室解体後に分かったサイズの測量間違いについて

キッチンについては、キッチン内の梁型部分の中に、空調のドレイン管が入っているハズで、そのレベルと位置を確認することでした。キッチンをしっかり養生したうえで…、

浴室解体後に分かったサイズの測量間違いについて

点検口を開けてみましたが、その点検口からは内部が見えなかったので、追加で点検口を横に空けてみたところ、

浴室解体後に分かったサイズの測量間違いについて

RC梁下にあるドレイン管の位置と高さ(レベル)を確認することができした。
その結果、ドレイン管の勾配を延ばして別の位置に排水を落とせることがわかり、キッチンのサイズを少し大きくすることが可能になりました。

いつもお客さまには、現場も既存図面を見ない状態で作るリノベーション案は実現可能性70~75%、現場チェックと既存図面を踏まえた段階で80~85%、部分解体まで行ってようやく90~95%、それでも完全解体するまでは100%は無いとお伝えしています。
今回は、お客さまが費用の追加と工期の延長を快く承諾してくださったことで、無事に乗り越えることができました。
そしてやはり、どんな現場でも解体までは少しドキドキが続くのです。