Author Archives: Kenji Kagami
2025.11.01
福建土楼の旅-2 方形楼に残る生活の記憶
[見学記]
前回ご紹介した「土楼の王」承啓楼(ショウケイロウ)のすぐ近くにも、見学可能で土楼が幾つかありました。今回はその中でも、より素朴で実際の生活が感じられる方形土楼・世澤楼(シセツロウ)を中心に、周辺の集落まで歩いてみた記録です。承啓楼が宗族の繁栄を象徴する建築だとすれば、世澤楼は、より素朴で生活に密着した土楼といえます。
















2025.10.29
寒さ対策とデザインにこだわった大田区S邸のオーダーユニットバス組立
[大田区S邸]
ヴィンテージマンションリフォームの大田区S邸のオーダーユニットバスの組み立てが始まりました。

今回のプロジェクトでは、元浴室があった場所と全く同じ場所にユニットバスを組む計画となっています。元の浴室は広くて(広すぎる?)壁がカーブした変形の空間で、在来工法浴室だったため冬は特に寒く、木製の扉は下部が腐ってしまっていました。
この写真の奥に見えているタイル張りの壁が元の浴室の壁でした。

弊社がオーダーユニットバスをお願いする際は、もっともよくお願いしているのが東京バススタイルさん、その次が今回お願いしているヴェルデさんとなります。ヴェルデの社長の立花さん(写真左奥の眼鏡を掛けている方です)は、元高級浴槽ブランドのジャクソンのスタッフだった関係で、ジャクソンの浴槽を入れるときにかなり安い金額で見積りを出してくれるのです。といっても選んだ理由はそれだけではなく、当初はジャクソンとつながりがあるGIGIのクローゼットを採用する予定だった(最終的には使わないことになってしまいましたが)こともあってお願いした経緯があります。

オーダーユニットバスの組み方については、以前のこちらの記事でもかなり詳しく説明させて頂きましたが、防水パンと呼ばれる水を下にこぼさない水受けトレイ(FRP樹脂で都度サイズオーダーで作る)と浴槽、壁材と天井、そして入り口のサッシから構成されます。
防水パンは小さい浴室であれば1枚で作ることがありますが、今回のような大型サイズとなると、マンションへの搬入のことや設置の簡易さから、2枚に分けて作ることがほとんどです。最初の写真でも洗い場部分の防水パンがすでに設置されていますね。

防水パンの脚の部分をアップで見た写真です。特にこちらのパンは浴槽が置かれる部分なので、パンの下に構造的なリブが入っており、そのリブにがっちり金属製の脚が固定されています。床下の不陸に合わせて、脚の高さを調節できるような作りになっています。右奥の丸い部分は排水トラップ(排水口で、下水の臭いが室内に戻らない構造になっている部分)となります。
ベニヤ板で塞がれた2か所に穴が開いていますが、そこから脚の高さを調整したり、排水管を接続したりできる点検口的なものとなっています。

こちらは他の部屋に置かれていたジャクソン社の浴槽です。カガミ建築計画ではヴェンティとネオ・ヴェンティをよく使わせて頂いていますが、今回はヴェンティです。どちらの半身浴が可能で、背の高さに差があるご夫妻の場合にご推薦させて頂いております。

こちらは壁パネルやサッシ枠の部品です。

翌日のオーダーユニットバスの様子です。既に防水パンが二枚組み込まれて、壁パネルとサッシ枠と窓枠、そして天井パネルまで組み立てられていますね。トラバーチン柄の壁タイルから線が一本たれていますが、これは追い焚き等をコントロールする給湯リモコン用の配線です。

防水パン2枚の嚙み合い部分です。まだシールが打たれていませんが、2枚のパンが握手をするようにしっかりと組み合わせられて、隙間から水が漏らないように作られているのです。

こちらは2枚の防水パンの噛み合わせ部分を外側から見たところです。

窓サッシの枠の様子です。白いビニールで養生されていますが、ステンレス鏡面仕上げの枠となっています。今回は、窓サッシ枠の外側(と言って洗面側なので内部です)に壁位置を合わせて同じトラバーチン柄のタイルを貼るデザインとしています。

こちらは天井パネルです。青い養生シートが張られていますが、3枚のパネルの構成です。奥の四角い穴は浴室暖房乾燥機を設置する開口で、その左右の丸穴は浴室用のダウンライト照明を設置する穴、手前の四角は天井裏で浴室暖房乾燥機を接続するための点検口です。

シャワー水栓やカランが付く側の壁です。壁中央部分が白くなっているのは、壁タイルとフラットに鏡を張る箇所です。下に水とお湯の立ち上がりが来ています。ここにライニング(立ち上がり壁)を作ってシャワー水栓等を後で設置することになります。

既存の2つの窓は活かすことになっているので、オーダーユニットバスにも2か所の開口が空いています。ユニットと言われるだけあって、基本は部品のほとんどを工場で作って、現場作業は組み立てだけとなるのですが、既存の窓サッシとピッタリ合わせないといけない部分については、現場での加工となるので、まだサイド壁が作られていません。
奥に見えている既存浴室の壁位置から見ると、新しいオーダーユニットバスの壁位置が10センチほど内側に入っており、狭くなっています。しかし、ほとんど断熱材が施工されていない外壁と、元の浴室の内側のタイル壁が冬の寒さを貫通させていたのに対して、新しいオーダーユニットバスの外側に空気層を作ることで、寒さを遮断することができるのです。

ほぼ組みあがった状態のオーダーユニットバスです。まだ、奥に見えている二つの窓側の壁タイルが張られていないこと、水栓類や照明、浴室暖房乾燥機等の設備が設置されていないこと、浴室の手前側の壁や枠が仕上がっていませんが。

手前側の壁や枠の施工は、実はヴェルデさんのお仕事ではなく、工事全体を請け負っているリフォームキュー側の工事となるので、弊社担当の竹田さんとリフォームキューの現場監督の大阿久さんが枠の仕様について打ち合わせをしている様子です。

そしてまた1週間後に現場に来た際には、内側の木製枠がこのように仕上がっていました。最後に浴室の枠と同じステンレス鏡面仕上げの枠でカバーする形になります。
2025.10.23
既存浴室解体で現れた「1つの驚き」と「2つの想定外」
[松濤D邸]
浴室とキッチンを中心とした3回目のリフォームとなる松濤D邸では、なるべく長くご家族がご自宅で暮らしながら、リフォーム工事期間を最小限にするべく、工程の調整をDさまご夫妻と工事会社のリフォームキューと相談してまいりました。
- ご自宅には浴室が一つしかありませんが、主寝室の奥にシャワーがあるため、浴室がなくても生活は可能です。
- キッチンが使えないと生活は大変ですが、「夜帰って寝るだけ」と考えれば何とかなる。
- ただし、キッチン奥にある洗濯機が使えないと住み続けることは難しい、というのがDさまのご要望でした。
以上を踏まえ、①浴室は先行して解体する(新しいオーダーユニットバスの製作開始に必要なため)、②キッチンはできるだけギリギリまで残しつつ、周囲を事前に解体して不明点をつぶしておく、③トイレが2つあるため、洗濯機を来客用トイレの便器を外した場所に仮設移設して使用を継続する、という方針を立てて工事を進めることとなりました。
そして解体したところ、「1つの驚き」と「2つの想定外」がありました。

1つの驚きがこのきれいなタイル張りの壁です!
既存のユニットバスを解体した裏から、以前の緑色のカラフルなモザイクタイルで作られた在来工法の浴室壁が現れたのです。

ほぼ同じアングルで撮影した、以前のユニットバスと解体後の様子のビフォーアフター(というより、ビフォーとアンダーデモリッション?)の比較写真です。ほぼ無彩色のグレーの浴室の裏から、こんなにも色鮮やかなタイル壁が現れるとは驚きでした。

この状態で東京バススタイルの眞柄さんに来てもらってレーザーを使って測量して貰ったのですが、先回の事前調査で測った寸法と合わないと首をかしげているのです…。

事前調査時には、天井点検口から測量した寸法で「90%程度の確率で間違いがないハズ」だとお客さまにはお伝えしていましたが、どうやらまさかの残りの10%側が起こってしまったようです。それが1つ目の想定外です。
眞柄さんと弊社の前田君が、事前調査時の寸法と今回の実測値を照らし合わせる中で、誤差が生じた原因を突き止めることができました。

このスケッチ図で、赤い線が元の浴室のサイズ、その内側に黒い線が既存のユニットバスです。元のユニットバスの天井点検口から眞柄さんが頭を出して測量をしてくれたのですが、赤い矢印の寸法を測ったことで、「新しい浴室はもっと大きくすることができる」と判断してしまったのです。しかし実際には、スケッチ図に注意書きしているように、その部分はニッチのように膨らんだ個所で、天井裏のダクト類が視界を遮っていたために気づけなかったのです。

Dさまには「新しい浴室は既存より大きくできそう」とお伝えして喜んでいただいていたので、僕らも焦りました。

そこでリフォームキューの森井さんも交えて検討した結果、浴室サイズを拡張できる2つの方法を見つけることができました。
一つは浴室扉の位置を洗面側に寄せること、もう一つはカラフルなモザイクタイルを斫る(はつる)ことです。洗面カウンターと浴室の間には通路があるため、追加の費用はかかりますが、洗面室への影響を最小限に抑えながら浴室を拡大できます。また、タイルを斫る場合はさらに費用がかかりますが、そこまで行えば先回ご説明した大型浴室が実現可能となるのです。

その結果を前田君が分かりやすい資料に纏めてくれました。③と④の案は、お客さまと一緒に選んでいた浴槽をサイズダウンする案となってしまうので、最初から×印。案①と案②の違いは浴槽に入った時の頭側と足側の部分にタイルで平場(ヒラバ)を作るかどうかです。

平場があるのが上段、ないのが下段。今回は浴槽の頭側にヘッドレストを付けるため、平場がある方がゆったりできます。ただし、そのためには壁のモザイクタイルを斫る必要があるのです。急ぎで両案の費用を算出し、Dさまご夫妻には費用感をもとに最終決定をお願いしました。
3日後に見積が届きました。
①既存モザイクタイルを撤去し、浴室サイズを1770×2080mm(最大)とする場合:諸経費・税込で約80万円増、工期5日延長。
②既存モザイクタイルを残し、浴室サイズを1730×2080mm(頭側に平場少しあり)とする場合:約30万円増、工期延長なし。

次の想定外は床レベルでした。浴室奥に、浴室とは関係ない排水管が通っていたのです。実はこれは浴室裏のトイレ排水管で、以前のリノベ会社がトイレ汚水を浴室内を経由して流すルートにしていたことが判明しました。
浴室を最大サイズにすると、この排水管上に防水パンを設ける必要があり、洗面室から浴室への床が47mm上がることになります。以前はサイズを小さくしてこの配管を避けていたのです。

断面詳細スケッチを見ると、左が洗面室、右が浴室。以前は25mmの沓摺(くつずり)高さが、今回は72mmになり、その差が47mmとなります。
前田君の資料を使った丁寧な説明で、Dさまご一家も理解くださり、最終的には①案の最大サイズ浴室を選択。床高上昇と追加費用、工期延長をご了承いただきました。

キッチンについては、キッチン内の梁型部分の中に、空調のドレイン管が入っているハズで、そのレベルと位置を確認することでした。キッチンをしっかり養生したうえで…、

点検口を開けてみましたが、その点検口からは内部が見えなかったので、追加で点検口を横に空けてみたところ、

RC梁下にあるドレイン管の位置と高さ(レベル)を確認することができした。
その結果、ドレイン管の勾配を延ばして別の位置に排水を落とせることがわかり、キッチンのサイズを少し大きくすることが可能になりました。
いつもお客さまには、現場も既存図面を見ない状態で作るリノベーション案は実現可能性70~75%、現場チェックと既存図面を踏まえた段階で80~85%、部分解体まで行ってようやく90~95%、それでも完全解体するまでは100%は無いとお伝えしています。
今回は、お客さまが費用の追加と工期の延長を快く承諾してくださったことで、無事に乗り越えることができました。
そしてやはり、どんな現場でも解体までは少しドキドキが続くのです。