港区R邸の作り付け家具は、建築の造作家具分野では抜群の知名度を誇るニシザキ工芸さんが担当してくれることになりました。まだ、詳細が決まっていない段階から、こちらのデザインイメージを伝えるとともに、お客さまが色々と検討できるように突板の塗装サンプルを作って貰うところから打ち合わせを始めました。
ニシザキ工芸が有名なのは、彼らが作る造作家具の精度以上に、家具塗装へのこだわりだと言われています。現在の造作家具屋は、家具を作る工場も自社で作っているところは少なくなってきており、塗装は外部委託しているところがほとんどなのですが、ニシザキは自社工場のすぐ隣に塗装工場を持っているのが、何よりの強みになっているようです。
因みに、先日のブログで紹介した、お客さまとの打合せで使った突板の塗装サンプルはほぼ全てニシザキさんにお願いしたものです。
初回の打ち合わせでは、初っ端から家具の詳細図を書いてもらうのではなく、まず初回の打ち合わせではこれまでに僕らがデザインしてきた造作家具の写真を見て貰ったり、仕上がりイメージに近い写真などを見て貰い、特に難しくなりそうな部分については、写真のようなラフスケッチを描いて、考えて貰うように依頼致しました。
2回目の打ち合わせでは、先回の打ち合わせで詰めた箇所をより具体的に描いた図面を用意してくれたので、事前のメールやり取りで送って貰った図面に赤チェックをしたうえで、寸法の体系などを考えさせて貰いました。
チェックは赤ではなく、青でしたね…。
番号を振った造作家具だけで約30個あり、さらに建具や枠も加えると50個近い要素を、それぞれの機能的&デザイン的だけで判断してゆくと、全体としての作り方の統一感が無くなってしまうので、太い部材の寸法や細い目地の体系、金属との取り合いなどを整理して考えてゆきます。
また、お客さまとの打合せに必要な具体的に塗装サンプルをどのように作って貰うかを相談させて貰いました。2枚ならんでいる塗装された突板は西麻布N邸でも採用したシャム柿の突板(他社製作品)です。実はこの突板の大元を扱っている山一商店さんには二種類のシャム柿の突板があり、それらを混ぜるのか単体で使うのかをニシザキ工芸の野田さんと上野さんに相談するためにお見せしたものでした。
2種類の突板を撮影したものをどのように並べ、白太(シラタ:白い部分)がどのように見えて、デザイン的に一番映えるかを検討するための資料です。突板屋さんでは、突板には表と裏があって、できれば表面だけを使って欲しいと言われておりましたが、経験が豊かなニシザキ工芸さんでは、塗膜を厚く作る鏡面仕上げにするのあれば、裏面を使っても良いのではとのアドバイスも張って、裏面も使ってランダムに見える柄で進めることになりました。
実際に上記の突板を作った場合に、造作家具と建具がひと繋がりになった個所にどう貼るかを検討したのがこちらのスケッチです。
より詳細な製作図を作って貰ったうえでの3回目の打ち合わせで、ようやく図面に赤チェックを入れて、ニシザキ側の考え方とこちらのデザイン意図のすり合わせを行いました。
金物などのサンプル(金物はニシザキではなくリフォームキュー工事)が届いたので、それらと絡む部分のディテールも打ち合わせをさせて貰いました。写真中央左の真鍮色のルーバーは、玄関折り上げ天井内の立ち上がりや、リビングの窓際の小壁に貼る部材のサンプルです。
ルーバーの取り付けは建築工事の範疇で、造作家具との絡みは無いのですが、リフォームキューの坂本さんも全ての打ち合わせに同席してもらっているので、一緒にタイミングで相談させて貰いました。
この金属製ルーバーの質感がとてもきれいで、お客さまも気に入ってくださっているので、柱型に合わせて作るAV収納の扉に真鍮の目地棒を追加で入れる提案をしたところ、そのようなグレードアップの提案は大歓迎だとお客さまに言って頂けたので…、
急いでこのような立体スケッチを描いて、お見積りをお願い致しました。真鍮目地と合わせるスティッチ入りの人工レザーパネルのサンプルも依頼致しました。この作り付け家具は、デザイン的なディテールだけでなく、内部にAV機器類や照明コントローラーのルートロン、更には下部の床との隙間にお掃除ロボのルンバも入ってくるので、どこの扉がどう開いて、内部の熱をどう排熱するかも理解してもらう必要があります。
そしてニシザキ側から上がってきたのがこの詳細製作図です。真鍮の角材とアングル材をうまく組み合わせて、目地がきれいに通るように工夫をしてくれていました。機能的にも、リフォーム工事側からAV機器やスイッチ類の寸法も出してもらっていたので、何とかうまく収めることができそうです。
人工レザーのパネルサンプルもその後届きました。スティッチの色を2種類お願いしていたのが、一つしかなかったことと、コーナーの部分の縫い幅が変わってきてしまっていたので、その再調整をお願い致しました。
一通りの家具打ち合わせが終わったところで、建築工事との絡みの確認をしてゆきます。造作家具を製作図レベルで詰めてゆくと、細かいディテールにまで入り込んでしまい、建築工事とのスケールギャップが生じてしまうことがあるので、建築工事と造作家具工事を同じペースに戻すために、建築と造作の取り合いを見ながら復習してゆきます。
また、実際に人の手が触る取っ手等については、縮尺の小さい図面だけでなく…、
原寸大に起こした図面を作って、指がうまく入りそうか、デザイン的に重たく感じないかなどをチェックしてゆきます。
また、これまでのデザインでは、特注の金属製取っ手と鍵がバラバラになってしまっていたので、それを何とか一体化させようと、リフォームキューの坂本さんがサンプルで取ってくれた鍵を見ながら、特注取っ手に組み込む工夫を前田君が考えてくれました。
合計で5回の打ち合わせを経て、造作家具の詳細まで詰めることができました。その後は、現地を野田さんや上野さんに実測行って貰い更に精度を上げた図面を、石工事や金属工事との取り合いを微調整し、メールで3度ほど赤チェックのやり取りを経て、最終的なGOサインを出すことができました。ここまで粘り強く僕らのデザイン&アイデアを具現化するために付き合って、図面の修正も重ねてくださったニシザキ工芸チームの皆さまとリフォームキューの坂本さん、どうもありがとうございます。そしてここからの実際の製作と取り付けもどうぞ宜しくお願い致します!