杉並区のスケルトンマンションリフォーム現場S邸では、竣工時には在来工法で作られていた浴室が、ご購入時には防水層まですっかり剥がされた状態でした。カガミデザインリフォームとしては、マンションの浴室はできる限りユニットバス(既成品かオーダー品かを問わず)で対応すべきだと考えていますが、今回は低層マンションであり躯体の揺れが少ないと考えられること、スケルトン状態で見ても構造躯体がしっかりしていること、またサイズと費用を考えると、既製品ユニットバスではスペースの無駄が大きく、オーダーユニットでは費用が高くなりすぎることなどから、それらを全て考慮に入れてに在来工法でやり直すこととしました。
壁周りに見えている黒い材料が、既存のアスファルト防水層です。既存状態では、防水層がほとんど剥がされているので、防水層の下地作りから始める必要がありました。
既存防水層とその上に塗られていた保護モルタルは全て撤去し、ゴボゴボだった壁をモルタルで補修している様子です。
事前に排水管の立ち上がり高さや、排水トラップの寸法などから、洗面・脱衣から浴室の床レベルの高さを+180と計算して、浴室の手前に一段上げた床を作ることとしました。因みに、写真で大工さんが作業している個所が浴室部分です。
防水下地ができた段階で、FRP防水工事が始まります。下地にプライマーを塗った後、写真で白く見えるシート状のものがガラス繊維で、これを壁に張り付け、その上から液状のポリエステル樹脂を塗ってゆきます。樹脂がガラス繊維に入り込んで固まって、シームレスの(継ぎ目のない)防水層ができあがる仕組みとなっています。因みにFRPとはFiberglass Reinforced Plasticsの略で、ファイバーグラスで補強されたプラスチックという意味です。天井裏に見えているカラフルな管は、さや管に入った給水と給湯管で、灰色に見える太い管は、防音の為に鉛で巻かれた上階の排水管です。
こちらがガラス繊維(ガラスマット)の拡大写真です。高校生の頃、美術の先生の手伝いでFRP樹脂で彫刻を作ったことがありますが、このガラス繊維が作業中に飛び散ると、衣服や髪について、ずっとチクチク痛痒いことを思い出しました。
こちらは、ガラスマットを敷いてその上からポリエステル樹脂を塗った際に、繊維の隙間に入り込んだ空気をローラーで押し出している様子です。ピッタリと下地にFRPが付着することで防水層の確実性が増すので、このような小さな作業も疎かにできません。このFRP防水の前には、ヒビが入りやすいコーナーや、特に注意が必要な排水トラップ周囲や木製下地との取り合い部分には、事前にウレタン防水を部分的に施工しています。
FRPを施工して一週間後には、水張り試験を行いました。5センチほどの水を浴室部分に入れて、丸一日観察して、自然蒸発分の1~2ミリ以上減っていないことで、防水層をチェックします。
こちらは踏込部分の横壁の天井付近の様子です。ここは完成後のPS暖房機を設置するので、木製下地の上に耐水ベニヤ板を張って、その上からFRP防水層を作っています。通常は水が掛かる腰高までを防水しますが、今回は特に丁寧に、壁は天井に接する部分まで防水層を立ち上げています。写真で所々に見えている丸い部品は、アルミ製のトンボという部品です。約20センチ間隔で取り付けて、後程この上に保護モルタルを塗る際の下地になるメタルラスを固定するための材料です。
防水層が完成した時点で、給水給湯管を設置してゆきます。防水層を破らないように、天井裏からそれぞれの管を立ち下げています。写真奥の壁には、浴槽への水栓を壁際に設置するために、溶融亜鉛メッキのLGSで下地を組んで、その裏に配管を通しています。
その後1週間してからの現場の様子では、トンボにラス網が張られていました。ラス網とは写真のネット状の金網ですが、この上からタイル下地となるモルタルを塗った際に、付着を良くして、剥落を防ぐため下地材です。 モルタルに含まれる水分やアルカリ性に対応する為に亜鉛メッキを原料とした網が主流になっているそうです。また、網のの奥のFRP素地にツブツブの表情がありますが、こちらもモルタルの付着を良くするために撒かれた珪砂(石英のツブ)という材料です。トンボの先の針金を曲げてラス網を留めている様子が良く判ります。
先週は水栓などの位置に合わせて端部だけが設置されていた給水と給湯配管ですが、今週は全て接続されていました。洗い場の給水給湯だけでなく、浴槽への給水給湯管もあるので、沢山の管が錯綜しているように見えますね。床部分には、砕石が詰められています。奥左側に見えている水色の箱状の物は、スタイロフォームです。後程、洗い場床をモルタルで均した後に、このスタイロフォームを抜いて、その個所に排水ユニットを埋め込むことになります。また、砕石の上には、ヒビ割れ防止用のネットが置かれています。右側のLGS下地の壁にはラスカットが張られています。ラスカットとは耐水ベニヤにモルタルを塗りつけたボードで、表面をモルタルが付着しやすいようにゴワゴワに仕上げている製品です。
こちらは、玄関横のトイレの床の施工途中写真ですが、浴室と同じく、砕石と金属ネットの上からモルタルを均している様子です。最初は長い木材で大きく揺らしながら均し、最後は木ゴテで水勾配を取りながら仕上げてゆきます。砕石部分が濡れた色になっているのは、乾燥した砕石の上にモルタルを施工すると、砕石がモルタルの水分を吸って、不均一に乾燥してしまうので、事前に水で濡らすようです。この程度の厚みがあっても、4時間ほどで表面はほぼ乾いて、上を人が歩いても大丈夫なくらいの硬さになります。
その一週間後、現場に鋼製ホーローの浴槽、カルデバイの製品が届きました。断熱に心配があったので、他の現場で発泡ウレタンを浴槽裏に吹いて貰っています。
その後、下地モルタルの上に寒冷紗(カンレイシャ)が前面に張られました。ひび割れを防ぐための耐アルカリガラス繊維の寒冷紗で、ノンクラック工法に従って、この製品を全面に張り付けています(と言っても、完全にクラックが入らない訳ではありませんが…)。溝が掘られた部分には、洗面・脱衣との間仕切りのガラス壁が差し込まれます。
こちらは水栓周りの下地の様子です。FRP防水の上に、三層ほど下塗りと中塗りモルタルが塗られ、寒冷紗が貼り付けられている様子がよく判りますね。水栓の部分は、ブロックでライニングが作られるので、下地塗りはされていません。
その一週間後、既に浴槽は設置され、ライニング部分のブロックも積まれ、モルタルで下塗り作業が始まっていました。
このように、木製の定規をあてながら、出っ張ってきている水栓をよけながら、きれいにコテで均してゆきます。
壁、ライニング、浴槽のエプロン部分、床共にモルタルで仕上がった状態です。床の凹み部分は、排水グリルが設置されることになっています。
床の凹み部分に排水用グリルが埋め込まれ、タイルが張られ始めました。写真では判りにくいですが、左側のグリルに向かって緩く勾配が取られています。
浴室床及び、手前の踏込位置までタイルが張られた状態です。手前の段差部分には、後日間接照明が埋め込まれる予定です。
仕上げ材はほぼ終わってから、今度は水栓金物の取付けになります。見えている水栓とシャワーのセットはハンスグローエ社、浴槽の水栓はTform(ティーフォルム)社が扱っているアガペの製品です。
ガラス扉はまだついていませんが、袖部分のガラスが取り付けている様子です。この袖ガラスでガラス扉を吊ることになるので、しっかり固定する必要があります。
袖ガラスが付き、壁にタオル乾燥用のPSヒーターが付いた状態です。スタッフの渡辺さんが中に入っていると、スケール感が判りますね。
こちらが完成後に、洗面脱衣側から望んだ写真です。清潔感のある白系の床タイルが、脱衣部分からフラットに浴室内に続き、その下には間接照明を入れて浮かせて軽く見せています。浴室内はモルタル塗りの簡素な仕上げとなっています。
浴室内部です。カルデバイのホーロー製浴槽とタイルの白と、モルタルの灰色のコントラストがシンプルで美しい浴室が完成しました。丁寧な施工をしてくれた各職方には感謝です。
在来浴室のリフォーム・ノウハウで以下の記事もご参照ください。
・在来浴室の扉枠をステンレスにリフォーム
・在来浴室のタイル壁の収まり詳細
・浴室のスタイリッシュリフォーム(外部サイト)